2017年3月17日号 Vol.297

1812年、モスクワ
高級ナイトクラブを再現!
オンブロ「グレート・コメット」


Josh Groban and the cast (All photos by Chad Batka)


(l to r) Lucas Steele and Denée Benton


Nick Choksi


こんな舞台経験は生まれて初めてです。チケットを買うときに座席表を見て、「どうなってるんだ?」と思いました。
1階席には川のように蛇行した通路が通り、オーケストラピットがステージ中央にポッカリ空いています。通常なら美術セットがあるステージ上にも客席が設けられ、どこが舞台なのかわからなかったのです。ミュージカル「キャバレー」のときのように、ドリンクが置けるテーブル席まであります。

いざ劇場に行って納得。1812年当時のモスクワの高級ナイトクラブが再現され、1階席から2階席の通路など、到るところが「ステージ」となって、出演者たちが歌い、踊るのです。出演者たちは1階客席から2階客席まで、通路を通ってどこへでも上下左右、好きなところに行けるようになっています。
それにどういう効果があるのか。最初の1曲目で度肝を抜かれました。
一斉に出てきた出演者たちがまんべんなく客席に広がります。バイオリンやギター、アコーディオンなどの楽器を手にしている出演者たちもいます。メトロポリタン歌劇場のオペラよろしく、オシャレなウニ型のシャンデリアが上がって開幕を伝えると、次の瞬間、迫力ある生の「歌声と演奏」が、360度、あなたを包み込むのです!!
スピーカーのサラウンド効果とはまったく違う音響に全身覆われる感激は、筆舌に尽くしがたいのものでした。
美術セットはステージ上の2階突き当たりの観音開きの扉とシャンデリア以外、ほとんどありません。衣裳と小道具、セリフと歌詞だけで、1812年のロシアを表していきます。
内容は何と、トルストイの「戦争と平和」。あんなに登場人物が入り組んだ大河ドラマをミュージカルに、と最初に吹き込んでしまうと尻込みしてしまう人もいるかもしれません。製作サイドもそれは懸念していたようで、ミュージカルが始まる前の「プロローグ」で、ある程度の関係を説明するのですが、「それでもわからない人はプレイビルに相関図があるので見ながら観てください」と、出演者がアドバイス。実際、テーブル上で開いて見ている人、いました。
ただ、そんなに複雑なストーリーじゃありません。ミュージカルがフューチャーしているのは、ナポレオンがロシアに侵攻してきた1812年以降。

ナターシャは、主人公のピエール伯爵の親友のアンドレ公爵と婚約中。彼は最前線でナポレオン軍と戦っていて、ナターシャは彼の帰りを待っています。ある日、アンドレの父親と妹に会いに行ったモスクワで、プレイボーイで既婚者のアナトーリ侯爵と邂逅。たちまち心奪われます。
一方、アナトーリ侯爵の姉のヘレンと結婚しているピエール伯爵は、妻が弟の親友ドーロコフと親密にしているのを目の当たりにし、決闘を申し入れ、もう少しで落命するところ。
アナトーリ侯爵はナターシャと2人、手に手に逃避行に向かうのですが――。

主人公のピエール伯爵を演じているのは、歌手のジョシュ・グローバン。彼はとても気さくで、僕が日本人だとわかると、「こんにちは、元気ですか」と日本語で挨拶してくれました。立派なアゴヒゲをたくわえているのですが、つけヒゲだと思ったら本物。役づくりのため、半年かかって生やしたそう。僕が行った日は翌日が休みの日曜日で、「これから丸2日間パジャマで過ごすんだ」と嬉しそうでした。
アナトーリ侯爵役のルーカス・スティールの金髪リーゼントも、てっきりカツラだと思っていたら本物。「スプレーでガチガチに固めてるんだ」と触らせてくれました。
タイトルにもある「グレート・コメット」のシーンでは、無数のライトが闇の中を降りてきます。一斉に光り始めるそのさまは、まるで草間彌生のインスタレーションでミュージカルを見ているような恍惚感。騙されたと思って、一度足を運んでみてください!(佐藤博之)

Natasha, Pierre & The Great Comet of 1812
■9月3日(日)まで
 ※J・グローバン出演は7月2日まで
■会場:Imperial Theatre
 249 W. 45th St.
■$59〜$179
■上演時間2時間半(休憩あり)
greatcometbroadway.com



HOME