2017年04月14日号 Vol.299

奈良ワールドの新展開
対話に誘い込むような空間
奈良美智「Thinker」


Midnight Truth, 2017. Acrylic on canvas. 227.3 cm x 181.8 cm © Yoshitomo Nara, courtesy of Pace Gallery


展示風景から。Miss Forest / Thinker, 2016. Photo by Manami Fujimori


 天窓の柔和な光を浴びてたたずむ、真っ白な樅の木(のようなもの)。ボコボコと突起のある円錐形のシェイプは、お供え物の落雁のようにも見えるが、高さは何と5メートルもあり、基底部分に少女の顔を宿している。目をつぶった菩薩のごときそのお顔の静けさもさることながら、乳白色の輝きや不可思議な全体像など、作品を形作る抽象的な要素に圧倒されてしまう。
 前回の個展からはや4年ぶり。日本拠点のアーティスト奈良美智(なら・よしとも)の久々の新作展に登場したこの彫刻作品は、「Miss Forest / Thinker」と題され、今展の要と言っていい。展覧会タイトルとも重なり、一室離れた展示空間の中、見ることや考えることの至福の時間を与えてくれるようだ。また、より小さなバージョンが2体、白と黒のペアとなって、会場エントランスで観客を出迎えてくれる。
 メインギャラリーの壁面を彩るのは、奈良お得意の「男の子のような女の子」が描かれた絵画の大作だ。目を閉じたり、見開いたり、口は一文字に結んだ少女像の物言わぬ姿は、広大なスペースの中、ゆったりと間隔を取り、1点ずつ、見る者との対峙を促している。と同時に、少女像にある髪の毛やセーターの色合いと背景のモノクロームとがまるで抽象画のような色と塗りの交錯を見せ、広い空間ならばこそ、よりいっそう息づいて見える。

 奈良のアートと言えば、キュートさやジャパン・ポップの要素が喧伝されてきたが、今展から受ける印象はちょっと違う。会場でふと浮かんだのは、「pensive」という言葉だ。思索的な要素は、展覧会タイトルのためばかりではない。作品を見続けること。その場所からの離れ難さ。いわば対話を誘い込むような空間作りの妙が、これまでのインスタレーション展示とはまた違う、独特の奈良ワールドを生み出している。
 会場には、言葉や文字が混じった日々の記録のようなボールペン画や、仔細な陰影表現を持つ鉛筆画、古代ギリシャの壺絵のごとき黒で彩色された焼き物が並ぶ一室もある。モチーフはいずれも女の子の顔や姿ながら、一連の鉛筆画を前に、もしや作家の自画像ではと思ってしまう。そんなパーソナルな側面が際立って見えたのも新発見だ。
 福島にも近い、東京近郊にスタジオを構える奈良は、2011年の大震災により、一時、絵が描けなくなったという。当時、スタジオ訪問を取りやめた海外のアート関係者が多かった中で、ただひとり訪ねてきたのが、ペース・ギャラリーの創業者アーニー・グリムシャーだった。ペースと言えば、世界トップの画廊のひとつ。故マーク・ロスコら巨匠が連なる扱い作家の陣容も最高峰だ。が、そうした画廊の名声より、奈良が反応したのは、グリムシャーの真摯な熱意だったようだ。
 そのペースの広々としたチェルシーの空間を埋める今展には、絵画、彫刻、ドローイング、陶芸と60点近い作品が登場する。さまざまな表現手法を用いながらも一貫性のある奈良のアート。日本ばかりか海外にも熱心なファンが多く、オープニング以来、大勢の観客を集めている。(藤森愛実)

Yoshitomo Nara: Thinker
■4月29日(土)まで
■会場:Pace Gallery
 510 W. 25th St.
■入場無料
www.pacegallery.com



HOME