2017年06月09日号 Vol.303

人間の「芯の部分」を表現したい
ダンサー/コリオグラファー:折原美樹



Photos by Tokio Kuniyoshi


モダンダンスのパイオニア、マーサ・グラハムが1926年に創立し、アメリカで最も長い歴史を誇る舞踊団「マーサ・グラハム・ダンス・カンパニー」。同カンパニーでプリンシパル(首席)ダンサーとして活躍し、モダンダンス界を牽引する折原美樹。マーサ・グラハム・ダンス・スクールと、ハートフォード大学ハートスクールで講師を務める傍ら、現在、舞台「In the Box 2 ーYou and Meー」の準備に追われている。

「いつも兄に付いていって一緒に野球をやっていました。活発な子でしたね」
3歳で日本舞踊を始め、6歳の時に自宅近くにあった「劇団若草」に入団、そこでモダンダンスに出会った。
「日本舞踊が大好きで、着物を着るのも好きでした。でも、モダンダンスをやるうちに、日本舞踊には無い『動き』に興味が湧き、好きになっていきました」。
両者はまさに「静と動」。両極端の動きの対比がまた楽しかったという。
その後、「日本舞踊かモダンダンスか」の二者択一を迫られた折原は、ダンスを選択。「山田奈々子舞踊研究所」に入り、本格的にモダンダンスを始めた。
演劇のように他人に成れるのがダンス。衣装を着け、役者のように、そのキャラクターに成りきる。
「『体を動かし、何かを表現する』ということが好きでしたし、それがダンスの魅力ですね」
若くして天職に巡り合った。

高校卒業後は、ロサンゼルスに親戚が居ることから、留学を計画した。
「英語を勉強して、運転免許を取って、ロスで2〜3年滞在できればいいかな〜という安易な考えでしたね(笑)。でも、それでは両親を説得できるはずもなく、留学理由として『ダンスの勉強をしたい』と話しました」。それを聞いた母は、通っていたダンススクールの山田先生に相談。「ダンスを勉強するなら、やはりニューヨーク」とアドバイスされ、留学先がニューヨークへと変更。そこから母が積極的に、ニューヨークの現状やビザのことなどを調べ始めた。
1970年代のニューヨークといえば、「どん底の時代」と評されるほど治安が悪く、社会も不安定。
「母は、まだ世間知らずの高校生を治安の悪いニューヨークへ、よく送り出せたな〜と、今から思えば、逆に信じられないですよね(笑)」
ー可愛い子には旅をさせよーというわけだが、「苦労の度合い」は、現在の比ではなかったはずだ。

1979年、来米した折原はクイーンズのフラッシングで生活を始める。「私自身、やはりニューヨークは不安だらけでした。父には『1年で帰ってくるから』と伝えていました」
やがて、マンハッタンへ転居したことで変化が訪れた。バレエのクラスを取り、アルビン・エイリーの学校に通い、演劇やダンスを見る機会が増えるようになる。ようやく、ニューヨーク生活楽しくなってきた頃、法が改正され、米国人以外の奨学金がカット、帰国を決断せざるを得なくなった。
そんなある日、マーサ・グラハム・ダンス・カンパニーのワークショップを受講した際に、講師から「学校に来ないか」と誘いを受け、同校入校の機会を得る。そこで、元マーサ・グラハム・ダンスカンパニーのプリンシパル・ダンサー、菊池百合子に出会う。まだ東洋人が、日本人が認められることが難しい時代に、世界の第一線で活躍していた大先輩との運命的な出会いだった。
「知人からも『ユリコのクラスを取りなさい』と勧められていたんです。そのクラスに出た時、『あなた日本人?頭で考えてはダメよ』と、日本語で言われたんです。目からウロコでした。グラハムのテクニックをとことん勉強しました。知れば知るほど、『踊りって、こんなにも面白いものなんだ!』と」
身体を動かすだけではない。精神、哲学、思想など、「踊り」が持つその「奥深さ」に、夢中になった。
そして、研鑽を積んだ折原は、プリンシパル・ダンサーへと上り詰める。現在、ソロ活動と並行し、講師としても後進の指導に余念がない。
「人間が持つ喜怒哀楽を表現したい。装飾的なテクニックではなく『芯の部分』、内面から溢れる感情を形にしたい。後進にはそんなテクニックを習得して欲しいと思っています。またそういったことを教えられるように心がけています」
喜び、怒り、哀しみ、楽しみという4つの感情があることによって、人生はより深く、ドラマティックになる。
「ダンスに出会った頃や、グラハムのテクニックに出会った頃などその時々で、程度こそ違いますが、『好奇心』が重要だと思います。常に『好奇心』を持っていたい。それがあるからこそ、新しい発見に出会うことができる。『あ、そうだったのか!』と、思う時があるんですよ(笑)」
五感を研ぎ澄まし、全身の動きに魂を込める。ダンサー、折原美樹は人間を、その生命を表現する。

「In the Box 2」
6月30日(金)から5公演


「『In the Box』は、大江千里さんを通し、FCIの阿部千代アナウンサーと親しくなって、舞台映像演出家の西山裕之さんを紹介していただいたことがきっかけです」と、折原。
「今までとは全く違うものを作り、違う世界を表現したい」と考える西山からの出演依頼があり実現。大江は音楽で参加した。
「1年半前の公演は、幾分実験的な部分もありましたので、反省点が多々ありました」
公演直後から、皆で意見を交換してきた。
「まず始めに西山さんが台本を書く。そこに、音楽担当の千里さんと話し合いながら私が踊りを考え、さらに西山さんの見解などを交えながら作っています」。時には意見を戦わせることもあり、「技術的にも精度を上げ、共同作業として納得の行くものを披露したいです」
「演出家」「ダンサー」「音楽家」と、違う立場からそれぞれの経験、理念、 主義などを交錯させたパフォーマンス「In the Box 2」は、更なる高みを目指している。(ケーシー谷口)

In the Box 2 - You and Me -
■6月30日(金) 7:00pm / 9:00pm
■7月 1日(土) 6:00pm / 8:00pm
■7月 2日(日) 5:00pm
■会場:LA MAMA -The Club-
 74 E. 4th St. (bet. 2nd Ave. & Bowery)
■チケット:大人$30、学生$20、VIP$100
www.inthebox-nyc.com



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