2017年06月09日号 Vol.303

野外展示のパイオニア
自然と対話する彫刻
ストームキング・アートセンター


David Smith, Primo Piano III, 1962 (left) and 2 Circles 2 Crows, 1963 © The Estate of David Smith/ Licensed by VAGA, New York. Photo by Jerry L. Thompson


Heather Hart, Oracle of Lacuna, 2017 © Heather Hart. Photo by Kayla Naples


David Smith, Tanktotem VII, 1960. Photo by Manami Fujimori


夏になると1日かけて訪れてみたいアートスポットのひとつに世界有数のスカルプチャー・パーク「ストームキング・アートセンター」がある。ニューヨーク市内から車で北へ1時間ほど、ハドソン峡谷の西に位置する風光明媚な森の中にアレグザンダー・カルダーやマーク・ディ・スヴェロら、馴染みの作家の巨大彫刻が110点余り、ゆったりと点在している。
今でこそ、ブラジルのアマゾンを舞台にした「イニョチン現代美術センター」や、瀬戸内海の離島に広がる「ベネッセアートサイト直島」など、野外アートのスペースは珍しくないが、当センターの創設は1960年。この分野のパイオニアだ。中でも、アメリカ現代彫刻の父ともいうべきデイヴィッド・スミス(1906〜65)の収集が群を抜いている。鉄材の溶接による、線と面で構成されたスミスのモニュメンタルな彫刻は、表面に彩色が施されたものもあり、絵画的な要素を併せ持つ。今夏の企画展の主役は、このスミスの白の彫刻シリーズだ。
そもそもスミスは、ストームキングの歴史とは切っても切れない縁にある。創設者のラルフ・E・オグデンは、スミスの死後、ニューヨーク州北東のボルトン・ランディングにあった作家のスタジオを訪れ、大草原に佇む遺作の数々を前に、自然と対話する彫刻の雄大さに目覚めたという。67年、当時としては破格の値段でスミスの代表作13点を購入。これが、その後のストームキングの方向を決定づけることになった。ちなみにオグデンは、ネジやボルトを作る工場経営で財を成した実業家であり、金属板や棒の組み合わせによるスミスの彫刻にはことのほか親近感を抱いたのかも知れない。
この記念すべき収集から、今年はちょうど50年目。白のテーマに絞った今展では、「プリモ・ピアノ(前景)」シリーズや、微笑ましいタイトルの「2つの円と2羽のカラス」など、他の美術館や個人コレクションから借り集めた6点が紹介されている。白の作品がこれだけ揃うのは珍しい。とくにプリモ・ピアノは「I」「II」「III」と全3点が勢ぞろい。野外ばかりか、丘の上に建つ美術館では、作品の完成当時の写真や、初期のサンゴや針金をセメントで固めた小品なども登場し、ちょっとしたミニ回顧展の趣だ。
記録写真のほとんどは、スミス自ら撮影したもの。展示の向きやライティングの効果にこだわったそのイメージは、それ自体が作品であるかのような存在感を見せている。また、フォトグラムを思わせる色調豊かなドローイングや、当館コレクションからの「タンクトーテムVII」の金属板の荒々しい白の塗りなど、抽象表現主義世代の彫刻家と謳われるスミスの多彩な側面が見て取れる、実に興味深い展示となっている。
一方、新進作家によるテンポラリーな作品設置「アウトルックス」は、ストームキングの風景に介入する大胆なプロジェクトだ。5回目を迎えた今回は、ブルックリン拠点の作家ヘザー・ハートによる、真っ赤な家の三角屋根が登場。屋根裏部屋かと思いきや、地面と直結した内部は冷んやりとして、農家の納屋といった雰囲気も。急勾配の屋根は、探検の場所であると同時に、夏の間に催される数々のイベントの格好の舞台となっている。
過去には、ストームキング内の養蜂場の作業場そのものをパフォーマンスに見立てた作品もあった。こうした新しいアートの動きがある一方で、カルダーやイサム・ノグチ、ジョージ・リッキーやリチャード・セラら、巨匠と呼ぶにふさわしい作家たちのスケール大きな彫刻が、高い空のもと、パノラマのごとくに現れる。半世紀を超えるストームキングの歴史の中に泰然と息づいている。東西に1キロ、南北に2キロに渡って伸びる土地の広さも圧巻だ。敷地内を走る2両連結のトラムや、レンタルの自転車を利用するもよし。が、一度は徒歩で廻ってみたい。アートのある大地が、グッと近づいて来る。(藤森愛実)

David Smith: The White Sculptures
■11月12日(日)まで
Outlooks: Heather Hart
■11月26日(日)まで
■会場:Storm King Art Center
 1 Museum Road, New Windsor, NY
■$18、シニア$15、5-18歳$8、4歳以下無料
www.stormking.org



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