2016年7月22日号 Vol.282

伝統継承した
新スタイルのタンゴ
バンドネオン奏者 JPジョフレ


アルゼンチンで「タンゴは人生」だと言われる。ほとばしる情熱が溢れんばかりの男と女の踊りに合わせ、タンゴ音楽に最も重要なパートを奏でるのがバンドネオン。
蛇腹を開閉しながら右手と左手は違う動きで色鮮やかなサウンドを生み出し人生の演出をする。
この魅惑の楽器を操るアルゼンチンが生んだ若きバンドネオン奏者がJPジョフレだ。
バンドネオンは手の中に収まるポータブル・オルガンみたいなもので、ジョフレが愛する声楽や協奏曲を表現しうる音色鮮やかな楽器だ。その音色はとてもノスタルジックで魂に語りかける。
「一般的に知られていないのだけど、バンドネオンは2つの鍵盤だけでなく、実は4つあるんだ。蛇腹を開く時、各ボタンが一つのサウンドを出し、閉じる時、同じボタンが音高を変える」見た目以上に複雑で演奏するのは難しい。
この世に生を授かった日からタンゴに囲まれてジョフレは育った。朝から晩までタンゴ・オーケストラを聴く祖父母と一緒に過ごし、タンゴにどっぷりと浸かった。
ティーンエイジャーになるとロックに嵌り、バンドでドラムを叩き始めるが、ある日、彼はとてつもない衝撃を受ける。
「『Libertango』をテレビで聴いた時、アストル・ピアゾラのバンドネオンが人生を変えたんだ」
バンドネオンこそ、自分が人生をかけて取り組んでいくべきものと悟ったジョフレは、この日を境にドラムからバンドネオンに楽器を変えた。

伝統的なタンゴは曲が短めで、リズムも非常にストレートでシンプルだが、ジョフレの音楽はコンサート方式で演奏される室内音楽に近い。
時代が変われば人も変わる。タンゴも然り、古典的な音楽スタイルも時代の空気を吸って変化していく。ジョフレの創作するタンゴ音楽も常に進化している。
「僕の音楽は、自分が過去にドラマーだったこと、そしてヘヴィメタルをやっていたことが、他のタンゴ音楽と異なる要素となっているかもしれないね」
それに加えて、彼はクラシック音楽を愛聴していた母の影響もあり、アルゼンチンで作曲を学び、ニューヨークでオーケストレーションを勉強している。
そうした彼の頭にある様々な音楽スタイルが混ざり合って、彼の個性(音楽)を更に際立たせているのだろう。
「ジャズやクラシックと並んで重要な音楽ジャンルの一つだと思う。タンゴダンサーたちと演奏するのも楽しいけど、タンゴ音楽だけでも、味わい深いし、コンサート音楽として十分に楽しめるもの」確かにタンゴは一流のアーティストやオーケストラがレコーディングやコンサートで取り上げている。

ジョフレが母国アルゼンチンではなくニューヨークで活動を続ける理由は、彼のアイドルでもあるアストル・ピアゾラ(タンゴ)、ジョン・レノン(ロック)、ベーラ・バルトーク(クラシック)が住んでいたこともあるが、やはり多くの異文化を吸収し学ぶことができるからだと語る。
「僕は現在33歳。これから長い時間をかけて学び、自分自身の音楽を追求していきたいし、このニューヨークのタンゴ音楽シーンにもっと影響を与えられる存在になりたい」と、力強く語るJPジョフレの名前を見る機会は、これから更に増えそうだ。

そのジョフレが中国ツアーを終え、自身が率いるハードタンゴ・チェンバーバンドと共に、7月31日にマンハッタンのジャズ・ラウンジ「Mezzrow」でコンサートを行う。
「今回のライブでニューヨークの人に、僕のオリジナル曲を聴いてもらえるから、今からとても興奮しているよ!」
タンゴの伝統を継承し、ここニューヨークを拠点にタンゴ旋風を巻き起こすだろうバンドネオンの革命児JPジョフレ。コンサートでは、きっと「タンゴは人生」を体感できるだろう。(河野洋)

JP Jofre Hard Tango Chamber Band
■7月31日(日)8:00pm/9:30pm
■会場:Mezzrow
 163 W. 10th St., Basement
 Tel: 646-476-4346
■$20、学生$10
www.mezzrow.com



河野洋: 名古屋市生まれ。12歳でロックに目覚め、ギター、バンド活動を始める。89年米国横断、欧州縦断のひとり旅の後、92年NYに移住。03年ソロアルバムのリリースと同時にレコード会社、Mar Creation, Inc.を設立。現在は会社では、アーティストマネジメント、PR、音楽、映像制作などエンターテイメントに関連するサービスを提供するかたわら、「NY Japan CineFest」「j-Summit New York」などのイベントをプロデュース。その他にも、エイズ、3.11震災後の日本復興に関わるチャリティイベントや、平和、社会、環境問題などをテーマにしたプロジェクトにも積極的に取組んでいる。 ウェブサイト : www.marcreation.com / メール: contact@marcreation.com
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