2017年08月11日号 Vol.307

全体主義国家の非道を描く
過激な演出に嘔吐・失神者も
「1984」


The cast of Broadway's "1984" at the Hudson Theatre (All photos by Julieta Cervantes)


Reed Birney, Olivia Wilde and Tom Sturridge


Tom Sturridge and Reed Birney


今年1月、トランプ大統領の就任直後、突然アマゾンの売上げ上位に躍り出た小説が英ジョージ・オーウェルの「1984」。世界65ヵ国語に翻訳され、累計3千万部を誇る68年も前のSF小説が、このタイミングでどうして? と思った人も多いでしょう。
でも、この舞台「1984」を観て、「終わりの始まり」を連想した人が多かったんだなと納得しました。それほど、ショッキングな近未来を描いているのです。

物語は、50年代に起きた核戦争後の1984年という設定。世界は3つに分かれ、小競り合いを繰り返しています。主人公ウィンストン・スミスが暮らすのは、絶対君主「ビッグブラザー」の支配下に置かれたオセアニア。街の至るところにモニターが配備され、市民の思想を監視し、規制する「全体主義国家」でした。
「真実省」で働くウィンストンは歴史記録の改ざんを担当。しかし、真実の歴史に魅了されたウィンストンは、思想警察に見つからぬよう、禁止されている体制批判を日記に綴るようになるのです。

この舞台の大きな特徴は、大スクリーンに映し出される映像を多用していること。驚くのは、同じ舞台上の別のセットでの映像を、生中継している点です。同じステージ上で同じ俳優が演じているのだから、セットを分けて見せたり、というのが既存の演出方法。でも、あえてスクリーン上でしか見せないのがこの作品のすごいところ。それも最後の大きなセット転換のときにそれが明かされるという具合で、生で熱演していた俳優たちにとっては録画に見えてしまい、ひどく損だったかもしれません。
すべてが生にこだわっている舞台ですから、俳優は真っ暗なセットの後ろで衣裳の早替えをしたり走ったり。主役のトム・スターリッジは鼻を骨折し、これがブロードウェイ・デビューとなったテレビドラマ「ハウス」でおなじみのオリヴィア・ワイルドも、尾てい骨骨折と肋骨を脱臼。それでも仕事を投げ出さないのは、プロ根性。でも、アクションシーンはほとんど出てきません。
代わりに出てくるのは、物議をかもしているバイオレンスシーン。
密告によって思想警察に捕らえられたウィンストンは、「愛情省」で尋問と拷問を受けます。「ニューヨーク・タイムズ」は、この尋問シーンを「拷問ポルノぎりぎりの生々しさ」と評していましたが、ドラマ「ホームランド」や「クリミナル・マインド」のほうがよっぽどひどいシーンを放映しています。さらに、これよりもひどいことが現実社会でも起きています。プラスアルファがあるとすれば、より近未来感を表すため、だだっ広い蛍光灯の人工的な白い明かりの下、生々しい血糊を飛ばしたり、ビジュアル的にも見る人の嫌悪感をかき立てていることでしょう。
それ以外にも100分間の芝居全編に、強いストロボ発光や突然の暗転、爆音など、過激な演出を次々展開。これらは製作サイドの意図を上回る演出効果を発揮したようで、嘔吐や失神した観客まで出ています。
結局、ウィンストンは「愛情省」の101号室で自分の信念を徹底的に打ち砕かれ、党の思想を受け入れて、処刑される日だけを思い浮かべながら「心から」党を愛すようになります。絶望です。

ため息しか出ないようなストーリーですが、そんなに気負って観に行く必要はありません。背筋に力が入るくらいで、暗いストーリーにも拘らず、展開はあっという間。もう終わっちゃったの?と感じさせる印象は、やはり芝居全体が面白いからに他なりません。ただし、13歳以下は入場不可。
完全なフィクションの世界でありながら、「もしや」と思わせる些細がこれでもかと出てくるところが、世代を超えたベストセラーに押し上げているのでしょう。
普段、あえて見ないようにしている人間の「嫌らしさ」を見にいくことも、人生勉強になるかもしれません。(佐藤博之)

1984
■10月8日(日)まで
■会場:Hudson Theatre
 139-141 W. 44 St.
■$35〜
■上演時間1時間40分
www.revisedtruth.com



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