2015年11月27日号 Vol.267

テクノロジーの陰に
見失われがちなもの
ダンサー:粟野 桜子(あわの・さくらこ)


Photos: (Top) Lane Gifford, (Bottom) Peter Kaskons


年も押し詰まった12月初旬、ユニークなコンテンポラリーダンス公演があるので紹介しよう。演目は「Dash」、「Striptease」、「Ana Deo」の3つ。このうち7人のダンサーが舞台狭しと身体で「コミュニケーションとは何か」を表現する「Dash」は、あの京都・龍安寺の石庭にインスパイアされた作品と言い、ダンスカンパニー「レインコアート(LaneCoArt)」の主宰者で振付家レイン・ギフォードさんが今回もっとも力を注ぐ舞台だ。7人のダンサー(男性2人、女性5人)の中に日本人ダンサー粟野桜子さんがいる。レインさんの信頼も厚い粟野さんを通して公演の魅力を探ってみた。

舞台「Dash」は、現代社会が陥ったコミュニケーションの欠落を問うのがテーマ。同じ言語で話していても自己主張にかまけ、相手の言うことを「聞く」という姿勢が失われているため、互いに膨大な量の言葉を発しながら相手とつながることが出来ず、苦しみのたうち模索する7人の心。論点は宙を彷徨うだけ。互いの思惑はかみ合わずに雲散霧消していくばかり。携帯電話やデジタル機器を使った効果音が場の緊張を高めていく。散乱する人間関係に救いはないのか? やがて舞台には彫刻家マーク・メニン氏が手による龍安寺の石をイメージした彫刻が配され存在感を放つ。コミュニケーション喪失の原因は何か? テクノロジーの発達と昔から変わらぬ人間のエゴ、これこそが互いの関係を阻害する源? 問題提起の前半に続き舞台はしだいに気づきの「瞬間」に向かう。「タイトルのダッシュ、というのは言葉と言葉をつなげるものという意味があるんです」と粟野さん。このような現象は実際、身近に起きているのではないだろうか。

さて、舞台狭しと踊るダンサー粟野さんは、今年5月にボストン・コンサーバトリーを卒業したばかりの文字通り新進気鋭のモダンダンサー。6月に拠点をNYに移し広いプロフェッショナルな世界に足を踏み入れた。「バレエを始めたのは4歳でした」。小さい頃はバレリーナに憧れクラシックを中心に練習に励んだ。やがてバレエ教室に教えに来る先生にもついてモダンも開始。進路を決めねばならない高校2年生の時、「バレエとモダンダンスの両方が学びたい」、と卒業後はアメリカの大学を選択した。
NYに来てから5ヵ月がたつが、ラッキーなことに踊る機会にずっと恵まれている。しかしその分、フリーランスダンサーとして数ヵ所のカンパニーを同時に掛け持ちでこなす。さらに、そこにダンスクラスとオーディションが加わるので、粟野さんの一日は目まぐるしいうちに過ぎ去っていく。

粟野さんとレインさんは、1年前の12月にボストンで出会った。「ボストン・センター・フォー・ジ・アーツ」のレジデンシープロジェクトで訪れていたレインさん、2月の自作ダンスショーのためにボストン現地でダンサー調達のためのオーディションを実施。お眼鏡に適った粟野さんを含む4人と、レインさんがNYから引き連れてきた4人が合流、計8人のダンサーで約5週間、集中的にリハーサルを繰り返したという間柄。今もレインさんは「サク、サク」と粟野さんに声をかける。
そのため、NYに来て初めて仕事するカンパニーとは違い、粟野さんにとっても信頼関係がすでにできあがっている心地よさがあるのだろう。「卒業したらNYで踊ることをレインさんには伝えてありましたので」と粟野さん。レインさんとの仕事は今回が2度目となる。

小さい頃から主にバレエに親しんだ粟野さん、基礎は日本で出来上がっていたため「大学に来てからもメインではなかったけどバレエの授業ももちろんありましたし、初めて見る様々な種類のモダンダンスや即興で踊るインプロもあって、刺激的で大変ではあったけど楽しみながら出来たのが良かったです」と話す。「20年間続けてきたダンスは私の人生の一部。人間だからいろいろ迷うこともあるけど、ふとした瞬間に踊り続けられていることを幸せに思います。ダンサーとしての自分が本当の自分。たとえ行き詰まっても原点に立ち返りダンサーである自分に素直でいたい。どう考えてもダンスがやっぱり一番好き。それを再確認すればどんなことでも乗り切る自信があります」
年末年始は久し振りに故郷広島の両親の元で過ごすという。筆者の眼からするとアメリカに来て「まだ5年目」でもあるのだが、充分密度の濃い時間を過ごした粟野さんの鍛え抜かれたしなやかな跳躍が眩しい。(塩田眞実)

LaneCoArts ダンス公演「DASH」
■12月3日(木)〜5日(土)
 3日 (木) 7:00pm
 4日(金)・5日(土) 7:30pm
■University Settlement/Speyer Hall
 184 Eldridge St.
■入場料:$15
www.brownpapertickets.com/event/2126975



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