2018年2月9日号 Vol.319

世界はありふれた日常から成り立つ
アメリカ原風景の記録
「スティーブン・ショア」


1:35 a.m., in Chinatown Restaurant, New York, New York, 1965–67 © 2017 Stephen Shore, courtesy 303 Gallery


2nd Street, Ashland, Wisconsin, July 9, 1973, 1973 © 2017 Stephen Shore, courtesy 303 Gallery


Washington, D.C., November 1972. 1972 © 2017 Stephen Shore, courtesy 303 Gallery


ハイウェイの看板や劇場街、ダイナーの朝食など、アメリカで馴染みの光景をスナップショット風に捉えたスティーブン・ショアの写真。初めて見たのは90年代後半だったが、当時注目のウォルフガング・ティルマンスの無造作な日常写真や、ガブリエル・オロスコの何気ない路上写真などと重なる感性があり、また一人新しい写真家が現れた!と感激したものだった。
ところが、ショアは1947年の生まれ。70年代初頭の「ニュー・カラー・フォトグラフィー」の騎手として、ウィリアム・エグルストンやジョエル・メイエロウィッツらと並ぶ写真界の重鎮だった。アート写真といえばモノクロが当たり前、カラーフィルムを使うのはご法度だった時代にいち早く旋風を巻き起こしたわけだが、モノクロ時代の早熟ぶりも語り草だ。
ショアは、6歳の時から暗室で作業し、10歳で専用のカメラを与えられ、その頃、誕生日にもらった巨匠ウォーカー・エヴァンスの写真集に目を開かれたという。14歳のとき、勇敢にもMoMAの写真部長エドワード・スタイケンを訪ね、3点のプリントの収蔵が決まる。その後、弱冠23歳でメトロポリタン美術館に登場する(現役の写真家としては初の個展)など、とにかく華々しいデビューぶりだ。
10代後半には、ウォーホルのスタジオに入り浸って、かの「スーパースター」たちを激写していたというのも面白い。本展の第一室には、このポップの王様の制作風景や日常の一コマがずらり並んでいる。その後に手がけた、連続写真のグリッド展示も興味深い。巨大なアメ車を正面から距離を変えて撮った写真や、友人を二日がかりで時刻を変えて撮った写真のシリーズ。場所や時間の移動が、カメラを通して等価に迫ってくる。
こうしたショアのさまざまな試みは、60年代後半のパフォーマンス写真やコンセプチュアル写真の萌芽を思えば、同じ線上にあったということだろう。とはいえ、ショアの最大の関心は、おそらくウォーホルの記録魔的な行状に刺激されたのか、当たり前の日常のダイアリー的な記録にあったようだ。と同時に、記念写真や観光写真にみる「カラー」の時代性に注目する。
こうして生まれたのが、ロードトリップ的な写真連作「アメリカの表面」(1972〜73)である。冒頭で記した通り、ガソリンスタンドやスーパーの店先、野中の一軒家など、いわばアメリカの原風景が、絵葉書大のサイズで並んでいる。絵葉書大でフレームなしという展示自体が、いま見てもラディカルだ。また、大判カメラで自然光のみで捉えたシリーズ「非凡な場所」(1973〜82)は、この時代の代表作だろう。どれも一様な明るさのもと、タイトルとは裏腹に、画一的で凡庸な郊外の風景が広がっている。
ところで、同じカラー写真でも、色濃いイメージの中にアメリカの歴史や人種問題が浮かび上がるエグルストンの米南部の光景と比べれば、ショアの写真世界は、どこか平坦で無表情にも思える。だが、「世界は劇的な瞬間だけで出来ているわけでなく、その合間にある日常から成り立っている」と語る作家の言葉にあるように、日常への注視、見ることへの興味が、編集加工のない当たり前の写真の中から伝わってくる。
82年よりニューヨーク郊外のバード大学で写真を教えているショアは、教育者としての経歴も長く、本展には、ロバート・フランクら歴代の写真家の作品を解説するコーナーもある。90年代以降、メキシコやウクライナに旅して撮影を続け、近年は、オンデマンド出版による写真集の刊行にも積極的。また、一日1点のペースで続けているインスタグラムなど、70歳を過ぎてなお新しい表現に挑戦中だ。
写真とは何か、見ることとは何か、人は何故、ある一つのイメージに惹かれたり、惹かれなかったりするのかーーさまざまな問いがよぎる中、久方ぶりに本物の写真展に出会えたという思いだ。会場は、じっくりと眺める若者たちで予想外に混み合っている。(藤森愛実)

Stephen Shore
■5月28日(月)まで
■The Museum of Modern Art
 11 W. 53rd St.
■大人$25、シニア$18、学生$14
 16歳以下無料
www.moma.org


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