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 よみタイムについて
 

よみタイムVol.121 2009年9月18日発行
号掲載

ペリー提督の末裔たち
珠玉のワインを追う


サウスオールド村の海岸近くに位置する小さなワイナリー。牧歌的な空気が流れる個性的な空間

国内生産の9割を占めるカリフォルニアとは一線を画し、東海岸ならではの独自のスタイルを確立しつつあるニューヨーク産ワイン。とりわけここ30年で成長が著しいのはロングアイランド産だが、島の東端の小さな村に、日本人になじみ深い人物ゆかりのワインがあるという。1853年、黒船艦隊を率いて日本を訪れた米国海軍マシュー・ペリー提督。アメリカでは兄のオリバー・ペリーとともに海軍のエリートとして知られるペリー兄弟だが、その末裔たちが手がけた珠玉のワインがニューヨークにはあるのだ。初秋のさわやかな風が吹き抜けるころ、黒船を偲ぶワインを求めてロングアイランドを訪ねてみよう。
(text & photos by Chisato Fukusihma)


ロングアイランド東端の村
「ザ・オールド・フィールド・ヴィンヤード」


かつて開拓者たちが先住民から譲り受け、大切に耕してきた歴史ある土地、「ザ・オールド・フィールド」命名の理由。

趣のある木造納屋を改造して作ったテイスティングルーム。19世紀初頭のサウスオールド村の様子を伝えるアンティークも展示されている

 ロングアイランド島の随所に点在する小さくて個性的なブティックワイナリーを訪れる人々の数は年々増加し、ニューヨークの新しい顔としてその存在感を確実にアピールしてきている。そんな中で、歴史に造詣が深い人々が関心を寄せているのがザ・オールド・フィールド・ヴィンヤードだ。場所はロングアイランドの東端、サフォーク郡サウスオールド村からわずか1マイル。ここは今から150年以上前、艦隊を率い、海を駆けめぐったペリー一族の末裔たちが丹念にぶどうを育む、知る人ぞ知るワイナリーなのだ。
 日本人にとって、ペリーといえば156年前に門戸を固く閉ざした日本を訪れ、やがて開国へと導いたアメリカ海軍マシュー・ペリー提督が思い出される。1794年、エリート海軍家系の三男としてロードアイランド州に生まれたマシューは、優秀な軍人であった父兄たちに倣い、15歳の時に自らも海軍入り。1812年からの米英戦争には2人の兄たちとともに戦いに挑んだ。そして1853年、マシューは日本に渡り、開国を迫った。翌年、200年以上続いた鎖国は終わり、日本は世界へと再びその扉を開いた。
 一方でそんな弟とともに戦をかいくぐってきた兄のオリバーは、米英戦争におけるエリー湖の戦いで米軍を勝利に導いた英雄としてアメリカ史上に大きくその名を残した。やがて150年以上の時が流れ、オリヴァーの子孫は、自然の恵みがあふれる大西洋に浮かぶ巨大な島、ロングアイランドへ移り住んだ。初夏から秋にかけてサンサンと降り注ぐ豊かな陽の光、肥沃な土と美しい空気と水。5代目となる子供たちを見守りつつ、母のロス・ベイスさんは、この地で曾祖母の代から歴史ある土地を受け継ぐクリス・ベイスさん(現・ロングアイランドワイン評議会会長)とともに、地ワイン造りに励もうと決意した。
 国道25号線沿いに立ち並ぶ他のモダンなブティックワイナリーとは異なり、ザ・オールドフィールド・ヴィンヤードは入植時代の面影をうかがわせる独特の雰囲気を持つ。古い木造の納屋を改造したテイスティングルーム、かつてこの地に暮らした人々の調度品を展示する小さなギャラリー、広々とした敷地内を走り回る鶏やアヒル。青々と生い茂るぶどうの葉に囲まれてまぶたを閉じ、空気を胸いっぱいに吸い込んでみる。一瞬、現代から過去へとタイムスリップしたような錯覚すら覚える。

1974年に
ベイス夫妻がスタート


 ワイナリーは、今でこそワイン愛好家たちが進んで足を運ぶまでに成長したが、1974年に夫妻が初めてこの地でぶどう造りを始めてから今日に至るまでの道のりは、決して順風満帆ではなかった。「そもそも1640年代にヨーロッパ開拓者たちが上陸するまでの約400年間は、サウスオールドは先住民たちによって耕されていた土地なのです。しかし、いかにぶどう栽培にも適した肥沃な土地といっても、どうやったらよいぶどうが育つのか誰も分からない。まさに手探り状態でした」と、クリスさんは振り返る。「とはいえ、私にはこの土地に対する信念があったし、世界一のワインを生み出す特別な場所だという確信もありました」。夫婦2人3脚、時に子供たちも参加し、試行錯誤を繰り返した。やがて1997年にはピノ・ノワールが、そして現在はメルロー、カベルネ・フラン、シャルドネ、ブラン・デ・ノワールといった様々な品種が実るようになった。


マシュー・カルブレース・ペリー
Matthew Calbraith Perry
(1794〜1858)

米海軍の英雄オリバー・ハザード・ペリーの弟。江戸時代末期に艦隊を率いて来航(1852-1854)、日本開国のきっかけを作る。

オリバー・ハザード・ペリー
Oliver Hazard Perry
(1785〜1819)

米英戦争に従軍し、エリー湖の戦いにおいて米海軍に決定的な勝利をもたらし、以降、エリー湖の英雄として歴史に名を残す。
Photos by The United States Navy


黒船ラベルを冠したプレミアムワイン2002年メルローの「ペリー」

テイスティング用のグラスに注がれたシャルドネ
黒船のラベル
メルロー「ペリー」


 ザ・オールドフィールド・ヴィンヤードで丹念に造られたワインは、どれも個性的。2006年のシャルドネは実にクリーンな味わい。ミネラルっぽさにほんのりと混じるトロピカルフルーツの香り。2004年ブラン・デ・ノワールは極小の泡が口中ではじけるさわやかなスパークリングワイン。いずれも一般の店では入手できない希少ワインだが、とりわけフレンチ・オーク樽で24ヶ月熟成させた2002年メルロー「ペリー」は極上のプレミアムワインだ。深いボルドー色の液体を一口含めば、熟成されたほどよい渋みがじんわりと口中に広がり、続いてブラックチェリーとスギの香りが鼻腔を通り抜ける。大胆な味わいのカリフォルニアワインとは異なる繊細な魅力にあふれたニューヨークならではのテイスト。黒船のラベルを冠したこのメルローは、熟成させるほど味わいに深みが増すであろう逸品だ。ザ・オールドフィールド・ヴィンヤードのワインは、造り手によって引き出された個性をつつましくもアピールし続け、そのやさしくてまろやかな味わいは人々の舌を楽しませてくれる。


ザ・オールド・フィールド・ヴィンヤードの造り手たち。左から5代目のオリーブ・ペリー・ワイスさん、父でありロングアイランドワイン評議会会長のクリスさん、妻のロスさん、そして弟のライアンさん
若き後継者は
ペリー・ワイスさん


 「夏の暑い時期に太陽の日差しの下でずっとぶどうの世話をするのは楽な仕事ではありません。けれども、よいワインを造ることはとても価値あることだと信じています」と、微笑むのはオリヴァー・ペリー家5代目となるオリーブ・ペリー・ワイスさん。ベイス夫妻が手塩にかけて築きあげたワイナリーの若き後継者だ。おりしも今年はベイス夫妻がぶどう栽培を始めて35年目。「かつてこの国に貢献した祖先たち――ペリーはとても重要な存在です。私自身、今ここでこうしてワインを造る一方で、彼らが残した歴史と伝統が、今度はこの地のワインに反映されることを願っています」。秋のぶどうの収穫を控え、ペリーさんは目を輝かせる。そんな彼女の姿を見て、この秋もあの「ペリー」を味わいにロングアイランドにまた戻ってこようと心に誓うのだった。
インフォメーション
■ザ・オールドフィールド・ヴィンヤード
 The Old Field Vineyards

59600 Main Road, Rte. 25 Southold, NY 11971
TEL:631-765-0004
www.theoldfield.com
営業時間:木〜月11:00〜17:00、火/水は休み

■ロングアイランドワイン評議会
Long Island Wine Council

www.liwines.com

■公共交通手段情報
ノーフォーク郡とマンハッタンを結ぶ高速バス「Hampton Jitney」。マンハッタン〜ワイナリーは約2時間。料金は片道$22、往復$40。スナックサービスがうれしい。
www.hamptonjitney.com