住宅ローンの破綻、投資銀行や金融会社の赤字決算など、米国はいよいよ不況に向かっている。が、ことニューヨークにみる限り、アートも不動産も高いほど売れ行きがいいようだ。オークションでは、現代アートのスターたちが最高値を更新し、有名建築家によるマンションは、完成前から売り切れる。プライム市場はどこも勢いがいい。そんな中、バワリー通りにオープンしたニューミュジアムを中心にホットなアートシーンが生まれている。(文:藤森愛実)
New Museum
Photo: Dean Kaufman
2階の展示スペース。開館記念展「アンモニュメンタル」からイサ・ゲンツケンの彫刻作品。 Photo: Dean Kaufman
ニューミュージアムが呼び水となってか、バワリーを基点としたローワーイーストサイド(LES)には、すでに30軒以上もの画廊が集まっている。「フィーチャー」や「エンヴォイ」のように早々とチェルシーを離れた画廊もあれば、「スミス=スチュアート」や「フルーツ・アンド・フラワー・デリ」のようにアパートの一階に隣り合って店を広げる若手のミニ画廊、また、「リーマン・モーピン」や「イレブン・リビングトン」など大手画廊の2号店としてのスペースもある。
バワリー進出の思惑はそれぞれだが、LES には古くから「ギャラリー128」や「ABC No Rio」といったアーティスト主導のスペースがあり、デランシー通りよりさらに下がった地域には若手アーティストのスタジオも多い。「同じ世代のアーティストと同じ近さで仕事ができるのがいい。トレンディだからというのではなく、LESが自分には一番合ってる」(「スミス=スチュワート」のディレクター)。「上の階に住む人たちは、現代アートなんて見るのも聞くのも初めてって感じだね。でも、アル中やドラッグ中毒者が寄りつかないよう僕たちを守ってくれる。僕らも
LES のコミュニティの一部なのさ」(「ラックス」のディレクター)。
こんな親近感を、実は、私もすぐに感じてしまった。もしかしたら、60年代ソーホーの起こりはこんな風だったのでは、という思い。まだ生々しいのだ。チェルシーのようにきれいで広くはないのだ。すべてが手作りという感じ。あるものを利用してのスペース。「リーマン・モーピン」のようにお金持ちの画廊でさえ、クリスティ通りに開いた2号店は、床のタイルは欠けたまま、木のドアはガタピシのまま。チープシックを保っている。
実際、チェルシーはあまりに大きくなりすぎた。ここ1、2年、どの画廊も大拡張を繰り返し、みな美術館みたいに広くなってしまった。どれも似たようなスペースの中、大きいだけのアートが並ぶ。その点、LESのギャラリーは、まだ小さなスペースが多い。人間的なスケールなのだ。だからアートがよく目に入る。スタッフとの会話が自然に始まる。
バワリーと交差するスタントンやリビングトン、平行に走るクリスティやオーチャード、いままで覚えもしなかった通りだが、画廊マップに沿って歩けば、ヒスパニックやチャイニーズやジューイッシュのいろんな文化の匂いがする。地域の歴史に出会う。気がつけば、イースト・ブロードウェイにまで足を伸ばしている。ギャラリー巡りの最後は、私の場合、いつもこの新興のチャイナタウンだ。大根や白菜やエビを買って、夕飯の支度もこれで安心。
ソーホーともチェルシーとも違う、ローワーイーストサイドのホットなアートシーンはいま始まったばかり。ニューミュージアムの SANAA
の新建築を手始めに、ストリート沿いのギャラリー、路地に隠れたギャラリー、中華街のビルの中のギャラリーなど、新傾向のスペースを訪れてみよう。新しい作家の新しい作品に出会う、先物買いのチャンスでもある。