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よみタイムVol.124 2009年11月6日号掲載
 

モノ作りの楽しさを知って、と石澤さん
アーティスト 石澤 彰一

男たちの手芸クラブ「押忍!手芸部」
7人のサムライでスタート

 ソーホーの一画にあるギャラリー・ハナホウ。ポップアート作品を中心にクラフトや手芸作品も積極的に取り上げるユニークなギャラリーで、日本にも根強いファンを持っている。そのギャラリー・ハナホウで開催中の一風変わった手芸作品展「押忍!手芸部」を訪ねてみた。
■7人のサムライ
 一風変わったグループ名「押忍!手芸部」は、服飾デザイナーだった部長の石澤彰一さん が出版社の編集者と話しているうちに出てきたアイデア。03年のことだった。書店の手芸コーナーに男性用の手芸本があってもいいんじゃないかというのが発端だった。
 集めた仲間は石澤さんを含め男ばかりの7人のサムライ。「経験者はワシひとり。だけど素人にも分かりやすい方法でやればモノ作りの楽しさが見えてくるはず」。幸い、仲間はヘアデザイナー、料理人などモノを作る連中だった。
 初めは、綿に毛糸をグルグル巻きつけていく作業をやってもらった。「これなら長いのも丸いものも作りやすい。粘土をコネるようなものです。やらせてみたら結構いいんですよ。作った本人たちも驚いたほど。自信も出てきた。この時ようやくチラっと方向性が見えた」という。
 名前の字面が面白いといわれるが、単純に「ああ男性がやってる手芸でしょ」と片付けられるのがいやですぐに女性もメンバーに加えた。
 「男の手芸です。珍しいでしょ?では終わらせたくなかった」と現在では、7人のサムライを頂点に今では数十人の部員をかかえる大所帯に。
 今回展示されているのは、毛糸の手袋を活用したキャラクターや電池で動くの犬のおもちゃが表情のないプラスチックのキャップを頭と尾につけて床を歩き回っている。たくさんの剥ぎ取られた縫いぐるみ部分はロボぐるみ(頭にかぶれる)となって生まれ変わり天井から下がっている。どの作品もアイデアに富んでいて何よりも楽しい。
■「押忍!手芸部」
 体育会を思わせるイカツイ名前「押忍!手芸部」が型破りなのは名前ばかりではない。
 「デザイン画いりません。型紙いりません。定規いりません。待針使いません。まっすぐ縫おうとしません。他人と比べません」というのがモットーという。
 活動は、コアのメンバーを集めて行う「部活」と一般の人々を集めて行うワークショップ「お部活」があるのだと石澤部長は説明する。
 ただし基本的にやることは同じ。特徴は、材料・課題について当日まで明かさない。当日その場になって「今日はこの材料使ってこういうものを作ります、では始めてください」とただそれだけ。当然初心者はとまどうが、慣れてくるとどんどん手を動かして作品が仕上がっていくという。
■一点ものばかり
 「押忍!手芸部」の作品は美術館のギフトショップなどに置かれることもあるが、作品を作るための型紙も設計図もないため、大量生産にはまったく対応できない、一点ものばかりなのだ。最終的な仕上がりにも正解はない。
 手芸作品はアート作品と比べて値段が低い。「例えば展示してある顔の形の財布なんか手間ひまかかる割に値段は高くはつけられない。」
 こうした事情から作品を売るというよりワークショップの開催がメインの活動となっているのだ。「手芸というよりアートだという気持ちが強いんですけどね」。
■茶道の専任講師も
 石澤さんは、中学・高校とバレーボールをやっていた。一旦体育大学に入学してバレーボールを続けるうちに「何か違うぞ」と服飾デザインの道に。今は手芸とデザインが半々という。「押忍!手芸部の手芸に正解はないけど、勝手にテキトーに作ればいいというわけじゃなく、決められた範囲の中で個性を引き出せればいい」。なかなか難しく奥の深さを感じさせる言葉だ。
 「茶道の専任講師」の肩書きもある。「お茶には決まり事も多いけど、守るべき事はきちんと守る中にも自由の広がりがあるということに気づいて欲しいですね」。
 「企業の会議室でお部活したい。新入社員が一生懸命作品を作っている向こうで、鬼部長と恐れられてる上司が意外に可愛らしいキャラクター作ってたりして」と高笑いした。(塩田眞実記者)

11月13日まで
Gallery Hanahou:
611 Broadway Suite 730 NYC
galleryhanahou.com