2018年1月12日号 Vol.317

ノグチとフォンセカ
二つの国を行き来した同士
ノグチ・ミュージアムの2展


イサム・ノグチによるアリゾナ州ポストン再開発の設計図(1942年)植物園や動物園、ミニゴルフ場の構想も。Photo by Kevin Noble


Gonzalo Fonseca, Castalia (detail), 1980 © The Estate of Gonzalo Fonseca. Photo by Nicholas Knight


ゴンサーロ・フォンセカの彫刻オブジェが並ぶ2階の展示風景 © The Estate of Gonzalo Fonseca. Photo by Nicholas Knight


イサム・ノグチ(1904〜88)の元スタジオを改装した「ノグチ・ミュージアム」。蹲(つくばい)のある彫刻庭園を訪れるなら、新緑の春や初夏の季節が一番だろうが、いまならオススメの展覧会が二つ揃っている。とりわけ1月末まで会期延長となった「1942年の自己収容:ポストン日系人強制収容所のノグチ」は、見逃せない。
日米開戦の中、西海岸に住む日系アメリカ人が家族単位でテキサスやユタなど8州11ヵ所に設けられたバラックに隔離収容された事実は広く知られている。日本人の父を持つとはいえ、ニューヨークに住むノグチは対象外だったが、自ら進んでアリゾナ州ポストンに赴いた。すでに著名アーティストであった彼は、首都ワシントンで知り合った管理官の要請を受け、収容施設のあるインディアン居留区の再開発に乗り出すのだ。
日系人の新しい街を建設する。農業を主体に自給自足が目標だ。が、物資は乏しく、日中、50度近くまで気温が上がる砂漠地帯は、水と電気があるだけの不毛の地だった。アート制作を通して日系人の士気を高めたいという思いもあったようだが、画材が揃う当てはなく、何よりも移民一世や二世との境遇の隔たりは大きかった。
自分の居場所のなさに気づいたノグチは、収容所からの退去を申し出るが、許可が降りるのは半年以上も先だった。その間、制作を試みてもいるが、流木に彫りを施したものなど、スケッチ的なものに過ぎない。本展には、ニューヨークに戻ってから制作された一連の作品が並んでいる。「世界は狐の穴」「この捻れた大地」など、タイトルはもとより、シュールなその形態に、アリゾナ時代の「現実離れした」心象風景を見ることができるだろう。
実際、作家仲間のマン・レイに宛てた手紙には、「夢の中にあるようだーーここでは時間が止まり、何も生み出し得ず、価値あるものなど何もない」と綴られている。こうした手紙や、当時の資料を集めた展示も興味深い。「僕は二世になる」とタイトルされたタイプ原稿は、収容所生活の総括として、雑誌「リーダーズダイジェスト」の依頼で書かれたものだが、結局は掲載されずに終わった。本展では、全文コピー(13頁)が複数用意され、「ハイブリッド」である自分や、多民族国家アメリカの将来を見据えたノグチの熱い思いに触れることができる。

もうひとつの展覧会は、南米ウルグアイ出身の作家ゴンサーロ・フォンセカ(1922〜97)の彫刻展だ。首都モンテビデオに生まれ、若くしてヨーロッパを旅し、イタリア、ギリシャ、シリアなどの古代文明に開眼したフォンセカ。当初、建築家を志すが、祖国の巨匠ホアキン=トーレス・ガルシアのもとで絵画を学び、やがて彫刻の道へと進んだ。その作品はといえば、実にユニークだ。
石灰岩や大理石のラフな表面に小さな穴や溝が刻まれ、階段や扉、球体やミニのピラミッドがはめ込まれている。棒状のつまみは、取り外すこともできる。箱庭のごときその世界は、子供の玩具のようでいて、どこか神秘的。古代遺跡を思わせる悠久の歴史を刻んでいるようだ。
アメリカ人女性と結婚したフォンセカは、50年代後半にはニューヨークに拠点を移し、注文制作の遊園地や、68年メキシコ・オリンピックの記念タワーの建設など、多くの公共事業で活躍した。人知れず制作していた卓上の作品は、生前、発表の機会は少なかったという。2階の企画展ギャラリーには、こうしたオブジェや、廃材やセメントを使った壁面レリーフも登場し、総数80点余り。ミニ回顧展の趣だ。
ノグチよりひと世代若いフォンセカだが、イタリアでは同じ採石場を使う仲であり、親しく交流していたという。晩年のノグチにとって、同様にコスモポリタンな生い立ちで、二つの国を行き来するフォンセカは、何よりの同士だったに違いない。彫刻から台座を外したブランクーシ、そのブランクーシに学んだノグチと、ジャコメッティの30年代の彫刻にあるゲーム盤的要素が強いフォンセカ。近代彫刻の展開を考える上でも、興味深い二人の存在である。(藤森愛実)

Self-Interned, 1942: Noguchi in Poston War Relocation Center
■1月28日(日)まで
The Sculpture of Gonzalo Fonseca
■3月11日(日)まで
■会場:The Noguchi Museum
 9-01 33rd Road @ Vernon Blvd., LIC
■$10、学生/シニア$5、12歳以下無料
www.noguchi.org


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