2017年3月31日号 Vol.298

無機的なデジタルビートを
心地よくグルーブさせる
オレンジ・ペコー



「音楽」というユニバースの中で二つの個性が融合し、分裂し、そして拡散する。生まれたエネルギーは決して消えることなく力強く発し続ける。オレンジ・ペコーは、ナガシマトモコ(ヴォーカル、作詞)と、藤本一馬(ギター、作曲、編曲)が織り成す絶妙なポップデュオだ。二人は対極を成しつつも、引き寄せ合い、引っ張り合いながら、洗練されたゴージャスなポップソングを世界へ提供する。

ナガシマトモコは、幼稚園の頃から歌手に憧れ、小学校に入ると創作を始めた。「作詞も作曲もしましたが、どうもメロディーを書くのが苦手で、私にはメロディーメイカーのパートナーが必要だと思っていました」
藤本一馬はビートルズが大好きだった父、ジャズ・ファンの叔父、そして、物心ついた頃にはブラジル音楽を聴いていたという、日本にいながらにして、国境なき音楽環境で育った少年だった。
オレンジ・ペコーは、そんな二人が大学の軽音楽部の部室で出逢ったことがきっかけで生まれる。ナガシマは、藤本がつま弾くギターの旋律に、今まで探し求めていたメロディーメーカーを見い出し、ナガシマの声に才能と魅力を感じた藤本の二人は即座に音楽活動を始めた。

兵庫県出身のデュオ は、大阪、神戸など 関西を中心に活動を 開始する。コンテストに出場したり、デモを配り、次第に周囲が認める人気と実力を見せ、そんな中、二人にレコード会社との契約話が浮上。
しかし、実際に契約をしたものの、デビューが決まらず、鬱々とする二人。部屋に引きこもり、誰かに聞いてもらえることもなく、一年近く、ただひたすら創作活動を続ける。みるみるうちに積み上げられていく新曲の山。なりふり構わず制作に打ち込む二人は、どんどん音楽に没頭していく。
「当時は先が見えず悶々としていましたが、今振り返ると、この缶詰作業が、二人のオリジナリティを追求させ、方向性を見極めていく大切な時期だったと思っています」と藤本は振り返る。最終的にその契約終了後、インディーズ・デビューを果たした二人。専ら60年代のブラジル音楽やジャズがダンサブルに流れるナイト・クラブ、 そして、ギターとボーカルのアコースティック・ デュオとして、カフェの2局面でライブ展開を続けた。テンポよくメジャーデビューを決めた二人は大学在学中にも関わらず上京する。

オレンジ・ペコーの魅力の一つは無機的なデジタルビートをも心地よくグルーブさせる巧妙なリズムアレンジだ。ミュージシャン志向の藤本は、もともと「打ち込みは音楽じゃない」と思っていたくらいだったが、ウエストロンドン系のクラブ音楽に嵌ると、当時の宅録ブームも手伝って、ライブ演奏と同じくらい打ち込みが楽しくて止まらなくなった。
ナガシマも、ただ歌うだけではなく、デジタルテクノロジーを駆使して、ディスカッションしながら制作できる過程が面白いと感じ、二人のコラボレーションは拍車をかけて進んでいく。そんなオレンジ・ペコーがアナログでアコースティックなサウンドとデジタルビートが自然発生的にミクスチャーしたアルバムが「Organic Plastic Music」(2002年)だった。このアルバムは時代のニーズに見事にフィットし、35万枚を超えるセールスを記録。「日本ゴールドディスク大賞ニュー・アーティスト・オブ・ザ・イヤー」など多数の賞を受賞し、全国にその名を轟かせた。
その後も順調に活動を続けるが、オレンジペコーでできないこともあると気がつき始めた二人はソロ活動を始める。
「一発録り、ビッグバンドなど様々な手法をやり尽くした感があって、各自がやりたいことを持ち込むこともできましたが、それをすることによってオレンジペコーの中で崩れてしまうものがあると感じました」そう語る、藤本はソロでギターのインストゥルメンタル音楽に取り組み、ナガシマは「Nia」という名義でソウルミュージックを追求している。
ナガシマが「一枚目のソロも完成し、純粋にシンガーとして、世界に何を産み落とせるのか、挑戦したいです」と言うと「ボーダーレスの象徴のようなニューヨーク。僕にはしっくりきます。ここで、僕が創る音楽がどう響くのか、挑戦したい」と藤本が続く。
アイデンティティがないことがアイデンティティ、それが許されるニューヨーク。ここに拠点を移したオレンジ・ペコーが「2009年ジャパン・デー」以来、単独ライブで初となるニューヨーク公演を行う。「初めまして的なコンサートにしたい」とナガシマは言う。

お互い音楽的にも人間的にもリスペクトでき、大切にしているものやこだわりがわかりあえると言う二人。オレンジ・ペコーが発する目に見えないエネルギーが、洗練されたリズムにポップな旋律に乗って、ステージからとめどなく流れ出すことだろう。(河野洋)

Orange Pekoe
■4月21日(金) 7:30pm / 9:30pm
■会場: Club Bonafide
 212 E. 52nd St., 3rd Fl.
■Tel: 646-918-6189
■$20 (入場21歳以上)
clubbonafide.com



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