よみタイムVol.208 2013年6月21日発行号
名画とのコラボ、立体版の「四季」
フィリップ・ハースの遊び心
Four Seasons by Philip Haas
Philip Haas, Winter and Summer, 2013 / All images: Courtesy The New York Botanical Garden
Philip Haas, Spring, 2013
Philip Haas, Autumn, 2013
夏ともなれば、数々の野外彫刻で賑わうニューヨーク。ロックフェラー・プラザやパーク・アベニューなど、ビル街に顔を出すアートに加え、まさに自然の中にあるのがぴったりな、野菜や果物をモチーフにした巨大彫刻が、ブロンクスのニューヨーク植物園に登場した。
「四季」と題された、春夏秋冬を象徴する4体の胸像である。
そのシュールな風貌に、「あっ、どこかで見たことがある」と思う人は多いかも知れない。そう、16世紀イタリアの画家ジュゼッペ・アルチンボルドの騙し絵を立体的に再現したもので、ファイバーグラスを素材に、高さ約5メートル。よくぞここまでと思うほど、原画そっくりに仕上がっている。
茄子やキュウリ、サヤエンドウ、ぷっくり膨らんだほっぺたは薄桃色のピーチと、「夏」のイメージはかなり派手。 枯れ木や苔、キノコの類が集まった「冬」の姿は、渋さの中にも強烈な存在感を放ち、ちょっとした前衛生け花風でもある。
「美術史の先生たちが訪れたときは、みな後頭部ばかりを気にしていましたよ」と語るのは、制作者のフィリップ・ハースだ。それもそのはず、ルーブル美術館やウィーン美術館でお馴染みのオリジナルには、横顔しか描かれていない。顔の正面は左右対称に作ったとして、さて後ろ姿はどうしたものか。見る側としては興味津々で、ぐるぐる廻っては思わず立ち止まってしまう。
いわばハースのアドリブも混じったこの立体版の「四季」、スケールといい、素材といい、アルチンボルドのイマジネーションがさらに爆発。まさに変容のパワーに溢れている。現代の奇想派にして、巨大フィギュアの登場といったところだ。
創作の発端となったのは、ワシントンのナショナル・ギャラリーで開催されたアルチンボルド展だった。ハースはこのとき、「冬」のイメージを発表。これが思わぬ人気を呼び、四季連作へと発展。
ハースはしかし、もともとは映画監督として活躍していた人で、95年の恋愛映画「Angels and Insects」はカンヌ映画祭のパームドール賞の候補にもなっている。最初の仕事がアーティストのドキュメンタリー映画だったことも影響してか、ここ4、5年は自らアート制作に没頭。バロック絵画の一場面を精巧なセットに組み、絵の中の人物が動き出すといった、映画畑出身ならではの映像インスタレーションで話題を集めてきた。
この「四季」も、単なる名画の再現というよりは、相対する春と夏、秋と冬の間の対話がいまにも始まりそうな、独特の緊張感に溢れている。
「映画を離れたわけではない」と語るハースにとって、時代考証から色づけや鋳造など、多くの専門家の手を借りての今回の制作は、映画製作同様、コラボレーションの賜物であったようだ。
「そう、スケールや劇的効果、あるいは物語性の点でも、いまやっていることと映画作りは本質的に違わないような気がしますね」
そんな元監督にとって、次なる目標は日本での展示だそう。季節感にはうるさい日本人にとって、この4体はどう映るのか。ちょっと楽しみでもある。
(藤森愛実 Manami Fujimori)
Four Seasons by Philip Haas
■10月27日(日)まで 10am〜6pm 月休
■会場:The New York Botanical Garden
2900 Southern Blvd, Bronx
Tel: 718-817-8700
■大人$10、シニア/学生$8、 2-12歳$2
■www.nybg.org