2016年8月5日号 Vol.283

「本物」目指して20年余り
「人と鬼」テーマにフリンジ出演
ミュージカルカンパニーOZmate代表 辻井奈緒子



オリジナルミュージカル「大江山鬼伝説」でフリンジに参加するオズメイト


兵庫県宝塚市に本拠地を置く「女性だけの劇団」と聞けば多くの人が「宝塚歌劇団」と答えるだろう。しかし、市内を流れる武庫川(むこがわ)を挟んで活動する全く別の「女性だけの劇団」、それがミュージカルカンパニー「OZmate(オズメイト)」だ。彼女たちは、8月12日から行われる北米最大の演劇祭「ニューヨーク国際フリンジフェスティバル」から招聘され、オリジナルミュージカル「大江山鬼伝説(The Legend of Oni)」を上演する。来米直前、同劇団代表・辻井奈緒子(つじい・なおこ)さんに、その意気込みを聞いた。

5歳の頃からクラシックバレエを始め、中学でミュージカルを目指すようになった辻井さん。きっかけは森繁久彌が主演した「屋根の上のヴァイオリン弾き」だった。
「宝塚歌劇は小学生の頃から観ていましたが、『屋根の上のヴァイオリン弾き』は宝塚とは違い、スケールの大きな『愛』を描いていると感じたんです」。森繁の演技に感動し、「自分もこのような舞台に携わりたい!」と強く感じたという。
23歳で、いずみたく主宰のミュージカル劇団フォーリーズ(東京六本木)に入団。ジャズダンスや声楽、タップダンスも身につけた辻井さんは数々の舞台に出演。「舞台は何回立ってなんぼのモン、お客さんに観せてなんぼのモン」を心情に、ひたすら経験を積んだ。

入団1年目、本場ニューヨークのブロードウェーでミュージカルを観劇した時、日本との違いに衝撃を受ける。
「『コーラスライン』や『キャッツ』、『レ・ミゼラブル』などを観たのですが、ブロードウェーは、日本の作品とは全く違う。面白いだけでなく、スケールも大きく深いことに驚きました」
何故このように感じるのか…。以降、辻井さんは来日公演がある度に足を運び、日本で日本人が演じる演目と「本家オリジナル」とを比較。だが、感じることはいつも同じだった。
「自分たちはどうすれば、ブロードウェーのレベルに近づくことができるのか?」と、年に1週間から10日程、ニューヨークに滞在。ブロードウェーを観賞しながら、ダンスのレッスンも受けた。
日本で活動しながら、本場に近づくための努力と研究を続けること15年。役者のレベル、言語や発声の問題など、いくつかの「日本とアメリカの相違点」を発見。最も大きな違いは、本場の「Musical」が、日本では「日本のミュージカル」という別のカテゴリーに変わってしまっていることだと断言する。
「日本では、あまり深く考えることなく楽しめるのが『ミュージカル』だと捉え、舞台を創る人たちも観客を喜ばせるための舞台を創ろうとしています。ですが、本場のブロードウェーは、『芸術レベルが高い作品』として創られていると感じます」

目指すのは「アメリカ、本場のミュージカルだ」と決心すると、90年にフォーリーズを退団。地元の宝塚に戻った翌年、ミュージカル・ダンススクール「スタジオオズ」を設立。94年にはスクールの有志と共に「ミュージカルカンパニーオズメイト」を旗揚げした。
女性だけで構成している理由を尋ねると、「もともと少なかった男性が退団した時、外部から演者を招いていました。ですが、目指す方向が同じ『オズメイト』と、日本のミュージカルに出演する彼らの『考え方』の違いから、同じ舞台を創ることが難しくなっていったのです」。そこで思いきって劇団員だけで公演すると、「女性だけの方がパワフルでおもしろい!」と高評価。この時、「女性だけの劇団で進む」ことを決意し、「私が目指す方向は、ココにある!」と感じたという。パフォーマーのレベルを上げ、ニューヨークで上演することを目標に、オズメイトは一丸となって、「自分らしさ」を探求し続けた。

今回、フリンジで上演する「大江山鬼伝説」は、「人間と鬼」がテーマ。平安時代の権力闘争を背景に、「人の心」にフォーカスした作品だ。
「同作の一番の魅力は楽曲、日本人の心を表現した21曲で構成されています。加えて美しい着物や扇、太鼓・笛の音色など、日本文化や美しさを楽しめるのも見所のひとつだと思います」
13日の公演後は、出演者と来場者が交流できるレセプション「フリンジ・プラス」も行われる。
今回、辻井さんはパフォーマーではなく、団長として皆をサポート。劇団員15人(内パフォーマー13人)と、スタッフとして元劇団員3人、総勢18人の「オズメイト」がニューヨークに上陸する。20年間、ブロードウェーで公演することを目標とし、努力し続けてきた成果を出し切ること…皆の志はひとつだ。
「日本独特の表現方法や異質な面白さで観られるのではなく、深い感情やテーマを感じて貰えるような舞台にしたい。『大江山鬼伝説』では、人間に見えていた者がやがて鬼に、鬼に見えていた者が人間になる。観終わった時、『私は人間か? 鬼になりかけてはいないか?』と自分に問うはずです」
我々日本人にとって「鬼」は身近な存在だ。「心を鬼に」して厳しく接し、「鬼の目にも涙」を流し、「知らぬ仏より馴染みの鬼」と、鬼は現代にも生きている。
「いろいろな要素を持っている『鬼』ですが、私達がおごり高ぶることなく『正しい人間』として生きていくため、人をいさめる役目を担っているのが、日本の『鬼』です。私自身、稽古中は、『こうあるべきだ』という心が強く、『鬼』になりかけます(笑)。でも、人の優しさや自然から力を貰うことで、自らを振り返って反省し、『人間』に戻ることができているのです」

人は、きっかけさえあれば簡単に「鬼」になる。しかし本物の鬼になるか、ならないかは、人間の「心」ひとつ。「今を生きる人々の心にズシンとくる舞台」を目指すオズメイト。公演後には、「仏の笑顔」を見せるに違いない。(ケーシー谷口)

The Legend of Oni
■8月12日(金)9:30pm
■8月13日(土)2:30pm(FringePLUS)
 レセプション会場:FringeLOUNGE at The Clemente
■8月15日(月)2:30pm
■8月16日(火)7:15pm
■8月17日(水)2:00pm
■会場:Flamboyan Theater
 at The Clemente
 107 Suffolk St.
■$18、(グループ割引:$13)
ozmate.net/oniinnyc
fringenyc.org


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