2015年8月7日号 Vol.259

海を渡った被曝親鸞聖人像
60周年記念式典9月11日 
アメリカ仏教研究センター(ABSC)代表:関 法真奈(せき・ほしな)


(写真左)NYへの旅立ち直前の聖人像
(写真右)親鸞聖人像


今年は太平洋戦争が終わって70年、日本人、日系アメリカ人、アメリカ人のすべてにとって大切な年である。縁あってアメリカに暮らす身にとって「平和とは何か」、「日米関係とは何か」を自らの胸にあらためて問いかける好機ではないだろうか。8月には各地で平和式典が繰り広げられるが、実はもうひとつの平和式典の準備が静かに進行中だ。その日は奇しくも01年の同時多発テロ事件の記念日9月11日と重なる。

マンハッタン、西105丁目の閑静な住宅地の一画、リバーサイドドライブ331番地に「NY仏教会(浄土真宗本願寺派)」と「アメリカ仏教センター(American Buddhist Study Center=以下AB SC)」の二つが入る重厚なビルがある。(住所別記)その脇に、笠をかぶり右手に杖をつき西を向いてどっしりと立つ僧形のブロンズ像、それが「親鸞聖人像」だ。高さ4・5メートル。この親鸞聖人像が海を渡りこの地に安置され除幕式が行われたのは1955年の9月11日のこと、ちょうど今年で60周年を迎えるこの銅像の由来には悲話があるというので、式典を取り仕切るABSCの代表、関法真奈(せき・ほしな)さん=写真=に話しを聞いてみた。

「この親鸞聖人像が初めに建立されたのは1937年のことです。大正時代、鉄鋼業で財をなした大阪の実業家、広瀬精一は子どもの夭折を機に浄土真宗に出遇い、それから日本各地で親鸞聖人像を建立することになるのですが、この聖人像もそのひとつでした」。

ちなみに関さんの父、関法善師は、若くして米国開教師を志望、西海岸を経て1938年の春に正式にNY仏教会を創立した人物である。関さんによれば、「1945年8月6日午前8時15分に広島市に原爆が投下された時、親鸞聖人像は爆心地から2キロほどの三滝聖ヶ丘に立っていました。広島市を向いていたため正面から原爆の熱線を浴び銅像は全体が赤く焼けただれたそうです。その後、被曝聖人像として平和公園に一時移されるのですが、信教の自由に抵触するとの反対意見にあい、撤去するならNYの本願寺(仏教会)に再設置するのがふさわしかろうということになったのです」。広瀬精一から寄贈を受けた銅像は、木枠に組まれて船でサンフランシスコに渡り、米国上陸後はニューヨークまではプロペラ機で空輸、重さは約2・5トンあり簡単な旅ではなかったという。

当時、中学生だった関さんは除幕式の日のことをよく覚えている。「欧米に禅を広めたことで著名な仏教者・鈴木大拙先生がスピーチされました。大拙先生は浄土真宗の宗祖・親鸞にも深い理解を示しておられた方です」。関さんの記憶によると鈴木大拙は、「政治、経済、道徳、、そして精神的な観点からみて、私たちがあちこちで直面する問題は、長い歴史の中で私たち人間が、個人あるいは集団で犯した過去の考えや行為を原因とした結果に違いないのです。だからこそ、私たち一人ひとりが、そしてみんなで、恐怖にあふれる世界状況の中で、責任をもって生きなければならないことを忘れてはなりません」と力説したという。

関さんは続ける。「人類最悪の原爆を体験して55年後、被曝親鸞聖人像はなんと今度はこのNYで、またしても人間による無残な破壊行為、『9・11』を再び目の当たりにされたのです」。関さんの言葉に熱がこもる。

ところで、60周年を迎える聖人像には問題があった。手にしていた青銅の杖が80年代初めに盗難にあったのだ。現在は鉄製の杖が使われているが材質が違うため本体とそぐわない。このことが気になって仕方がなかったのが、仏教徒を自認し市内でレストランを多数展開するTICグループ社長の八木秀峰さんだ。八木さんの寄進により青銅の杖がよみがえることになり、参加者は当日、長年の汚れを清め青銅の杖を握る清々しい聖人像の除幕式に立ち会うことになる。在ロサンゼルスの梅津廣道米国仏教団総長の司式で再奉献式が行われ、オレゴン大学の海野(うんの)マーク博士が講話する。また、前述の八木氏や他宗派代表者などによる記念平和スピーチも予定されている。さらに「僧太鼓」のパフォーマンスや、今秋、日系の有名俳優ジョージ・タケイ氏などが出演するブロードウェーミュージカル「Allegiance」の一場面も披露される。式典は誰でも歓迎、参加無料。

関さんは最後に、「この式典にご寄付が頂けるようなら次のような形(別記)でお受けしております。どうぞよろしくお願い致します」とすべてのNY在住者に広く呼びかけた。

戦争を起した国で放射線を浴び原爆を落とした国で静かに立ち続ける被曝親鸞聖人像。「戦争と平和」、「敵と味方」、「善と悪」など対立観念を超えた地平があることを無言で訴えているのかも知れない。
(塩田眞実)

60周年記念式典
■9月11日(金) 6:30pm
■会場:American Buddhist Study Center
 NY Buddhist Church
 331 Riverside Drive, (105 St.)
 Tel: 212-864-7424
www.ambuddhist.org

(寄付/布施の形態)
Wisdom:$2,000
Peace: $1,000
Compassion:$500
Harmony:$250
Other:金額随意
■問合せ:関法真奈(せき ほしな)


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