2015年10月2日号 Vol.263


日本発のボーカロイド「IA」
仮想が現実になる日
音楽プロデューサー:村山 久美子




物語の中に生きる漫画やアニメのキャラクターに我々は心を動かされ、情さえも感じる。そして今、世界中で人気を集め始めた日本発のボーカロイドIA(いあ)。彼女はこれからどんなドラマを生み出し、世界を相手にどんなアーティストになり得るのか?!

IAの生みの親は仙台生まれの村山久美子=写真=。「昔から音楽は大好きでしたが、洋楽好きなので、日本の音楽業界に入るなんて全然思っていませんでした」
元々音楽とは無縁の外資系の会社に入社したが、企業の合併買収が続き、最終的にレコード会社「エイベックス」に腰を据えた。音楽業界の一通りの仕事を経験し、ルーティン化し始めた頃、クリエイターが表舞台に立てる場を作りたいという思いから、起業を決める。それが、IAをプロデュースする1st PLACEだ。
1st PLACEに欠かせないのが同社所属のボーカリストLia(リア)の存在。退職前にシンガーを探していた村山。何十箱もある段ボールの資料に目を通していたが、Liaの唄を聞いた瞬間、村山の全身に電撃が駆け抜けた。「Liaの歌声に感動した私は、直ぐに彼女に連絡しました」
米国で歌を勉強して帰ってきたばかり彼女は、メジャーデビューが決まらない状況に嘆き、村山に「世界に通用するボーカリストになる夢」を告げる。Liaとの二人三脚で1st PLACEが始まった。
透き通るようなクリスタルヴォイスを武器に、Liaは徐々にファンを増やし、スターダムにのし上がる。しかし、Liaは結婚と出産で休業期間に入ってしまう。「まだ志なかば」と感じていた村山は、彼女の休業中、Liaの声と共に、世界を目指す新たな決意をする。
そんなある日、村山は画期的なボーカロイド(ボカロ)と出会う。それは初音ミクで大ブレークした、ヤマハが開発した音声合成ソフトだった。旋律と歌詞を入力すれば、サンプリングされた人間の声が歌声を合成してくれる。つまりボカロは、生身の歌手がいなくとも、歌うことができる音楽ソフトだ。「ボカロの世界では、クリエイターが制約無しに好きな音楽を発表でき、それをリスナーにダイレクトに届けられるという私にとって理想の世界、感銘を受けました」
とことん質を追求する村山は、ヤマハからの許可を得て、ボーカロイドの開発にも取り組んだ。独自のスタイルを存分に盛り込んだ、Liaの分身とも言える「ボーカロイドIA」をデビューさせた。ボーカロイドIAの魅力は、音楽性の幅の広さと質の高さ、そしてクリエイターたちの層の厚さだ。村山の目的はボカロとJ・POPの間の大きな垣根をなくしプラットフォームを提供すること。それは、2012年に発表された「IA/00」から、最新の「IA/03」までのコンピレーション・アルバムで聴くことができる。そこでは、巧みの技を聴かせる50代のヒットメーカーと、我流で音楽を自由に作る高校生のボカロ・クリエイターが、IAの名の下で見事に溶け合いながら混在する。

進化し続けるIA。村山は今、新たなミッションに取り組んでいる。
「これまでIAの売りはキャラクターではなく、音楽ソフトウェアという位置づけでやってきましたが、これからは彼女をバーチャル・アーティスト、つまり、一人の音楽アーティストとしてプロデュースしていきたいと思っています」
IAを世界規模で活躍する日本初のバーチャル・アーティストにすることが、村山の今の目標だ。そして、その達成の暁には、村山がLiaと約束した「Liaを世界に通用するボーカリストにする夢」も実現する。
「ボカロが世界中で受け入れられている理由は、それが日本のオリジナル文化だからだと思います。キャラクターもボカロも日本独自のもの。だから海外のファンは日本語のIAの歌を聴くのが好きだし、歌詞を覚えてくれます」と村山は語る。
IAはステージのスクリーンに現れては消えるバーチャル・アーティスト。我々の心に夢と音楽を刻んでゆく。そしてIAに魂が宿る時、仮想が現実になる。(河野洋)

IA Special 3D Live Showcase in NY
■10月11日(日)8:00pm
■会場:The Gramercy Theatre
 127 E. 23rd St.
■TEL:212-614-6932
■$35、$45(当日) ■年齢16歳以上
venue.thegramercytheatre.com



河野洋: 名古屋市生まれ。12歳でロックに目覚め、ギター、バンド活動を始める。89年米国横断、欧州縦断のひとり旅の後、92年NYに移住。03年ソロアルバムのリリースと同時にレコード会社、Mar Creation, Inc.を設立。現在は会社では、アーティストマネジメント、PR、音楽、映像制作などエンターテイメントに関連するサービスを提供するかたわら、「NY Japan CineFest」「j-Summit New York」などのイベントをプロデュース。その他にも、エイズ、3.11震災後の日本復興に関わるチャリティイベントや、平和、社会、環境問題などをテーマにしたプロジェクトにも積極的に取組んでいる。 ウェブサイト : www.marcreation.com / メール: contact@marcreation.com
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