2016年11月18日号 Vol.290

「Zen」思想、世界へ広めた偉人
鈴木大拙、没後50周年記念式典
MoMAで12月11日



金沢の「鈴木大拙館」シンプルなたたずまいが禅の世界を表す (photo courtesy of Miki Nakura)


「Zen」、「禅」、「ゼン」と、日本人以外の人々にも発音しやすい上、シンプルな文字列、本来の意味から離れてレストランや店舗の名にもふんだんに取り入られるようになったこの言葉、これほど人口に膾炙することになった発端は、すべてこの鈴木大拙(西洋世界ではD.T. SUZUKIとして知られている)一人の功績による、と言っても差し支えないだろう。
仏教哲学者・鈴木大拙(すずき・だいせつ)。その知名度は日本より海外でのほうが高いと言われている。1966年に満95歳で没してちょうど今年でちょうど50周年、日本はもとより世界各地で記念行事が行われているが、中でも鈴木大拙にもっともゆかりの深いこのニューヨークで故人の偉業を偲ぶ回顧式典(アメリカ仏教研究所主催)が、12月11日(日)、MoMA(ニューヨーク近代美術館)で行われるというので、イベントの紹介かたがた鈴木大拙という人物像に簡単に触れてみたい。

鈴木大拙は、1870年(明治3年)に石川県の金沢で生まれた。本名は貞太郎、大拙(だいせつ)の名は、北鎌倉円覚寺の管長、釋宗演から受けた号であり、欧米で「D.T. SUZUKI」として知られているのはダイセツ・テイタロウ・スズキを意味するものだ。苦学して英語教師となるが、その職を投げうち、さらに勉学を深めるため東京に出て帝国大学に学ぶ。日本を代表する哲学者・西田幾多郎とは同郷であり同じ高等学校の親友であった。そんなつながりを背景に東京に出た大拙には、哲学への関心が心底にあったようで在学中に前述の円覚寺に参禅、釋宗演らの指導を受ける。1897年27歳で釋宗演の推挙で渡米。米出版社で英訳本の出版や、さらに翻訳ではなく本人の英文著作「大乗仏教概論」が出版されると、たちまち欧米に広がり仏教文化普及の先がけとなった。
海外に大きな足跡を刻んだのは晩年のことで、1950年、80歳の大拙は58年にかけてアメリカ本土に滞在しヨーロッパを含む各地で仏教思想の講義を行う。1952年にコロンビア大学の客員教授となるとニューヨークを拠点としてプリンストン、イエール、ハーバードなどの各大学で禅の思想を精力的に説き、その仏教思想はとくにアメリカのインテリ層に熱く静かに浸透していった。当時も今も多くの企業経営者たちにも深い影響を与え、近年有名なところではアップルの創業者で禅に傾倒していた故スティーブ・ジョブズ氏が大拙の著作の愛読者であったことが知られている。

今回の回顧展では主催団体の「アメリカ仏教研究所」が大拙の功労を称え、初の「仏教思想普及栄誉賞」(In Gratitude Award)を贈る。受賞式には、故郷金沢にある「鈴木大拙館」の主任研究員・岩本明美氏が来訪し大拙に代わって受け取る予定だ。このほか、オバリン大学のジェイムズ・ダビンズ博士、オレゴン大学のマーク海野博士、シエラネバダの禅堂からネルソン・フォスター老師が登壇して大拙の功績について語る。
また、禅ばかりでなく、親鸞の主著「教行信証」を英訳するなど浄土真宗に対する造詣も深かった大拙は、アメリカ仏教研究所、NY仏教会の創立者・関法善師と親しく交流を持ち、その住まいもセンターの目と鼻の近さにあったという。当日は前述の各氏のスピーチのあと、仏教会ゆかりの「NY剣禅道場」から剣士が参加してデモンストレーションを行うほか、表千家茶道、橘流舞踊、コンテンポラリーダンス、などの仏教文化とつながりのあるパフォーマンスがMoMAのロビーいっぱいに繰り広げられる。ちなみにMoMAの新館と金沢の「鈴木大拙館」を設計したのはともに谷口吉生。
MoMAの施設内でこうしたイベントが行われるのは異例のことで、優れた英文で世界に禅と仏教思想を広めた稀有な偉人、鈴木大拙の没後50年を記念するにふさわしい舞台と言えそうだ。(塩田眞実)

鈴木大拙没後50周年回顧式典
The 50th Year Commemoration of D.T. Suzuki
■12月11日(日)2:00〜8:00pm
■会場:MoMA
 11 W. 53rd St.
■入場料:$50
 早割り:$40(11月25日までの申し込み)
 グループ(10人以上)$32/1人
■申込み・問い合わせ:
 Tel: 212-864-7424
 www.dtsuzuki.eventbrite.com
www.AmBuddhist.org



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