2017年12月22日号 Vol.316

世界の音楽を「体感」する
「グローバルフェスト」

年明け恒例となったワールド音楽の祭典、グローバルフェスト(以下gF)が、2018年1月14日(日)、ニューヨークで大々的に開催される。今回は舞台をウェブスターホールからマンハッタンの心臓部、タイムズスクエアに移し、隣り合わせの「BBキング・ブルース・クラブ」と「ルシールズ」、42丁目を挟んだ「リバティ・シアター」の3つの会場に12組のアーティストが登場。様々な国のサウンドコラージュで真冬の都会の夜を彩る。(河野洋)


カリフォルニアに生まれ育ち、ニューヨーク(ブルックリン)で礎を築くイヴァ・サリーナ


イヴァ(左)とセルビア系アコーディオン奏者ピーター・スタン


バルカン音楽のエキスパート
イヴァ・サリーナ


15年の歴史を誇るgF。厳選された12組のアーティストが、国境を越え、ここニューヨークに集結、自分たちのルーツやスタイルを独自のサウンドで披露してくれる。近年、顕著な現象と言えば、アメリカを拠点に活動しているアーティストが非常に多く、今回も半数近くを占めることだ。それは米国で「ワールド音楽」という土壌が培われ、確固たるマーケットが存在している証拠でもある。

中でも、カリフォルニアに生まれ育ち、ニューヨーク(ブルックリン)で礎を築くイヴァ・サリーナは、今もなお進化し続けるバルカン音楽のエキスパートだ。両親が無宗教で、家系的にも特定の文化や習慣に基づいたものがなかったこともあり、イヴァは幼い頃から世界中の文化への興味を抱き、自由奔放に異文化を吸収していった。中でも太鼓などが楽しめる地元の日本祭りはお気に入りだったと言う。
7歳の頃にイディッシュ語でユダヤ音楽を歌い始め、8歳には魂が揺さぶられたというバルカン音楽の虜となりブルガリア語を学び始める。一口にバルカン音楽と言っても、その多様性は計り知れない。国で言えば、ブルガリア、ボスニア、モンテネグロ、マケドニア、セルビア、クロアチア、ルーマニア、アルバニア、ギリシャ、トルコなどが含まれ、言語、楽器、リズム、伝統も全て、各地域ごとの特有性がある。
バルカン音楽を学ぶにつれ、その幅広さや歴史、そして伝統の重みを痛感し、「自分のルーツでもないものを追求する意味はどこにあるのか」と考えたりもしたが、言語を正しく学び、発音することで、その壁を乗り越えることができることに気がついた。
「もし外国人が、自分の国の言葉の歌詞を正しい発音で歌っていたら、そのシンガーが如何に真摯に取り組んでくれているかが良く分かるでしょう? だから時間をかけて、一つ一つの母音をしっかりと発音して歌うの。そうすることで自分のコンプレックスからも解放される」と言語の重要性を力説する。
イヴァは18歳くらいから一人でニューヨークを頻繁に訪れ、パフォーマンスを行うようになる。ここにはバルカン諸国から移民してきたミュージシャンンたちが多く、バルカン・コミュニティがあったからだ。セルビア系アコーディオン奏者ピーター・スタンともブルックリンで出会い、今回のgFではイヴァの伴奏を務める。彼もイヴァ同様、豪州で生まれ育ち、外からバルカン文化を吸収したアーティストだ。
そんな彼と一緒に製作した最新アルバムが「SUDBINA」。セルビア人シンガー、ヴィダ・パブロヴィッチが、かつてレパートリーで歌っていた曲を集めたものだ。「私が歌う曲は1960~80年代のものが多くて、あまり演奏されなくなってしまったものばかりなの。だから、30年後くらいに私の歌を聴いて、忘れられていたロマ音楽を再び歌い始めてくれたら、と願っているわ」と、ほのかな望みをアルバムに託す。
イヴァのようにアメリカ人でありながら、バルカンのジプシー音楽を歌うアーティストを見ていると、もう純粋なワールドミュージックは存在しないのかもしれない、との思いを抱く。YouTubeやSpotifyを通して、映像も音楽もデジタル配信が普及し、世界中の音楽をどこにいても体験できる世の中になり、インド音楽はインドだけ、アフリカ音楽はアフリカだけで楽しまれ、育まれるものではなくなった。そして、ワールドミュージックの定義について、イヴァ・サリーナは独自の見解を示す。
「カテゴリーやジャンル分けは他の人に任せておけばいいのよ。自分が地に根を下ろして、ありのままに表現する音楽がワールドミュージック。ヴァージニア州の田舎で歌うフォークミュージックも同じ。バルカン音楽を聴いたことがない人が私の音楽を楽しんでくれて、それを聴いて育った人たちが私の音楽に繋がりを感じてくれて、そういう異なるバックグラウンドの人たちが音楽を聴いて一つになる。これこそが本当のワールドミュージックなのだと思う」
そんな思いを語るイヴァ・サリーナ。gFのステージではきっとオーディエンスの心を音楽の糸で繋げてくれるだろう。



多様性に富んだ世界を
音楽でつなぐ


「ルシールズ」では、イヴァの他、ブラジルから歌姫アヴァ・ホーシャがノスタルジックな常夏ポップスを聴かせ、グアドループからは新感覚のパワートリオ、デルグレイがカリブ海とルイジアナをデルタ・ブルースで結ぶ。ヒップホップとインド音楽を融合させるグランド・タペストリーは、インドの楽器サロードとタブラーの旋律にラップを絡ませ瞑想の世界に導く。

「リバティ・シアター」では、NYタイムズ紙で「イランのボブディラン」と称されたニューヨーク在住のイラン人シンガーソングライター、モーセン・ナムジューが、セタール(イランの楽器)を片手にペルシアを歌い、アイルランドのマルチプレイヤー率いるジャーラス・ヘンダーソン・バンドが、ケルティック音楽に新風を吹き込む音楽を聴かせる。東欧のジョージア(グルジア)のイーベリ・クワイヤーは、絶妙のポリフォニック・アンサンブルでグルジアのフォークソングを披露し、プエルトリコのミラマールは、同国の女性作曲家、故シルビア・レクサックへの敬愛を情熱のボレロで表現。

「BBキング・ブルース・クラブ」では、数々の賞を総なめにした名実ともにデトロイトのブルースの女王、ソーネッタ・デイビスがパワフルな歌声でブルースの真骨頂を聴かせ、ジュピター&アクエスはコンゴ民主共和国に音楽革命をもたらした圧巻のサウンドで舞台を沸かす。フルート、パーカッション奏者のキューバ人シンガー、ラ・ダーム・ブランシュ(別名ジャイテ・ラモス・ロドリゲス)はヒップホップ、クンビア、ダンス、レゲエを過激かつ華麗にミックス。ラテン・グラミーにもノミネートされた女性のみで編成されるマリアッチ(メキシコ音楽団)のフロール・デ・トロアチェは、軽快でフレッシュなメキシカンミュージックを届けてくれる。

音楽のデジタル化が当たり前になってしまった現在、世界の音楽をライブで体験できるグローバルフェストは非常に貴重なフェスティバル。音楽は生き物だ。録音された音楽は記録として伝達されるが、ライブ演奏の音楽は人々の心に感動を与え、忘れられない記憶となって後世に伝えられていく。今回もヒートアップ間違いなしのグローバルフェストに乞うご期待!

globalFEST 2018
■1月14日 (日) 7:00pm
■会場(3ヵ所)
○B.B. King Blues Club:237 W. 42 St.
○Lucille's Bar & Grill:237 W. 42 St.
○Liberty Theater:233 W. 41 St.
■$50(3会場共に入場可)
www.globalfest.org


出演スケジュール/アーティスト名:
■Lucille's
7:30p - 8:30p: Ava Rocha
9:00p - 10:00p: Delgres
10:30p - 11:30p: Eva Salina & Peter Stan
12:00a - 1:00a: Grand Tapestry


■Liberty Theater
7:00p - 7:45p: Mohsen Namjoo
8:15p - 9:00p: Jarlath Henderson Band
9:30p - 10:15p: Iberi Choir
10:45p - 11:30p: Miramar


■BB King Blues Club
7:45p - 8:30p: Thornetta Davis
9:00p - 9:45p: Jupiter & Okwess
10:15p - 11:00p: La Dame Blanche
11:30p - 12:15a: Flor de Toloache



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