2022年4月29日号 Vol.420

文:国際ジャーナリスト 内田 忠男
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在職期間は歴代最長
ウソで塗り固めた安倍政権

桜を見る会で挨拶する当時内閣総理大臣の安倍晋三と内閣総理大臣夫人安倍昭恵・閣僚・警備関係者ら。2017年4月15日撮影/内閣官房内閣広報室 (CC BY 4.0)

前回、私が近しく会ったことのある総理大臣経験者の中で、小泉純一郎氏を高く評価しながら、安倍晋三氏を後継に指名したことが「唯一の失策」だったと書いたが、それが何故か、説明しておきたいと思う。

安倍氏は5年5ヵ月続いた小泉政権で官房副長官と同長官という、総理大臣に最も近い役職を務め、その間には自民党幹事長にも抜擢された。それだけ小泉氏の信任が厚かったのだろうが、小泉氏に「人を見る目が欠けていた」と言わざるを得ない。2006年9月に総理大臣に就任、「小泉改革の継承」を謳いながら、「美しい国」などという抽象的で正体不明の国家像を唱えた。政策が鮮明だった小泉政権に比べ、「何がしたいのかわからない内閣」と言われ、翌年7月の参院選で改選議席の半数を大きく下回る敗北を喫した。9月に再開した国会で所信表明演説をしたが、翌々日に「健康障害」を理由に突如首相の座を降りた。「大腸性潰瘍炎」と説明されたが、診断にあたった慶應義塾大学病院の担当医は後に、検査結果は「機能性胃腸障害」に過ぎなかったとしており、健康以前に参院選敗北など支持率低下の状況を見て政権維持への自信を失ったと理解された。

その後は、福田康夫、麻生太郎と1年ごとの首相交代が続き、09年7月の総選挙で自民党は119議席と惨敗、308議席を獲得した民主党に政権を譲ることとなった。ただ、この民主党政権も鳩山由紀夫、菅直人、野田佳彦と1年ごとに首相が代わる混迷ぶりで、有権者が期待した政権交代の効果を全く発揮できず、政策の退歩・迷走が目立っただけだった。

自民党の政権奪還が確実視された次の総選挙に先立ち、12年9月に行われた総裁選挙は、事実上「次の首相」を選ぶ場として激戦になった。地道な地方回りを重ね、派閥を離脱して新鮮味を強調した石破茂議員への一般の人気が高く、党員・党友による投票から算定された得票は石破氏が165票で、派閥の代表・町村信孝氏を押しのけてまで再出馬した安倍氏の87票に倍近い大差をつけたが、国会議員票は安倍54に対し石破34……合計で199票を得た石破氏は過半数に25足らず、議員票だけの決選投票に持ち込まれた。結果は108対89。安倍氏の再登板が決定的となった。同年12月の総選挙は、民主党が57と歴史的惨敗、自民党は294議席を取って政権復帰した。第2次安倍政権は「危機突破内閣」として、デフレ克服のための大胆な金融緩和、大規模な公共投資を伴う機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略――を「3本の矢」とする経済政策を掲げ、「アベノミクス」を名乗った。以後、20年9月に再び「健康不安」を理由に退陣を表明するまで7年半余にわたり首相を務めた。連続2822日、通算3188日という在職期間はいずれも戦前戦後を通じ歴代最長である。

これほど長きにわたって首相を務めたからには、さぞ立派な政治家で数多の実績を上げたと思われがちだが、決してそうではない。とくに評価を下げているのは、ウソの多さである。徹頭徹尾、ウソで固めたのが安倍政権であった。

「アベノミクスで日本経済は劇的に復活した」と手柄顔をするが、それ自体ウソ。当初から、バブル崩壊後伸び悩んできた日本のGDPを「600兆円にする」と公言してきたが、長期にわたる首相在任中、600兆円に達したことは一度もなかった。「株価が上がった」というが、日銀が年間6兆円分もの日本株を買っているのと、年金基金が大量投入されているのが大方の株高要因である。当初から「デフレマインドの払拭」を大上段に掲げてきたが、コロナ禍やウクライナ戦争などで資源や原材料、物流の価格が値上がりし、円安で輸入物価が上がって、「インフレ」が懸念されるようになったのは、ごく最近のことで、アベノミクスのお蔭では決してない。

TPP(環太平洋パートナーシップ協定)については、12年総選挙の公約に「断固反対」と書かれていたにもかかわらず、協定批准が国会審議に上がると、「TPPに反対と言ったことは、ただの一度もありません」とウソをいう。北朝鮮による拉致の問題では、「被害者を全て、私の政権中に帰国させる。そのために全力をあげる」と繰り返したが、これもウソ。実態は、何もしなかった。一言で言えば「やる気」もなかった。

ロシアとの北方領土問題。これには「やる気」を見せ、プーチンとの首脳会談を実に27回も重ねた。しかし、何が変わったかと言えば、何も変わっていない。変わっていないどころか、先方の意志が後退した。ウクライナ戦争など始まるずっと前から、プーチンのロシアには、北方領土を返す意志など微塵もなくなっていた。27回の首脳会談に費消された膨大な国費が、ただ無駄になった。「ウラジーミルとシンゾー、こう呼び合う仲だ」と自慢げに言っていたが、それもウソだった。
モリ・カケ・サクラ……の3題話はもっと解りやすい。

モリとは大阪の森友学園が国有地の払い下げを受けるにあたり、安倍夫妻との親密な関係を利用して大幅な値引きを勝ち取った。同学園が設立しようとした小学校は、昭恵夫人が名誉校長を務めることになっていたが、安倍氏は国会で「私や妻が関係していれば総理も議員も辞める」と断言、当時の財務省理財局長らがこの首相答弁との整合性を取るために43回に上る虚偽答弁を重ねたうえ、省内文書の改ざんまで行った。ウソがウソを呼び、近畿財務局で文書改ざんを指示された職員が自殺を遂げる悲劇まで生んだ。

カケとは傘下に岡山理科大学を持つ加計学園が、愛媛県今治市に獣医学部の新設を企図し、理事長が南カリフォルニアに留学していた時代から続く安倍氏との親交を力に新設の許可を得た、とされる。許認可権限を持つ文部科学省に「これは総理のご意向」と書かれた文書が存在していたことが発覚したが、安倍氏は国会答弁で、「理事長から頼まれたことはないし働き掛けもしていない」「もし働き掛けて決めたなら責任を取る」とシラを切り通した。この国会終了後の記者会見で「信なくば立たず、です」と見栄を切ったが、この言葉すらウソ。「安倍さんも『加計さんから聞いていた』と言えば良かった。そう言わないから、何か隠しているのかなと思われる。モリカケで次々に出ていることは、昔ならそれぞれで一発アウト。退陣ものでしょ。野党が不甲斐ないからそうなっていないだけ」という言葉を残したのは、当時総務相だった野田聖子氏である。
サクラというのは、もっと単純でせこい。国費で開く「桜を見る会」に多数の安倍後援会員を招き、前日に開いた夕食会の費用も安倍氏側が一部補塡していたとされる問題をめぐり、安倍氏が国会で「事務所は関与していない」「明細書は無い」「差額は補塡していない」というウソを、少なくとも118回繰り返していたことが衆院調査局の調べで分かっている。

政治家のウソつきは、洋の東西を問わず、ロシアのプーチン大統領や、アメリカのトランプ前大統領など枚挙にいとまが無いが、民主主義を奉ずる市民の側からすれば、また納税者の立場からすれば、これほどウソで塗り固めていたリーダーを許すわけには行かないのである。もっとも、国のリーダーとして基礎的な素養もない安倍氏を、これほど増長させてしまったのは、私たち有権者の無力かもしれない。(つづく)

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