2022年6月24日号 Vol.424

文:国際ジャーナリスト 内田 忠男
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番組で不合理価格を追及
牛肉は米の18倍以上
NTT電話料金不正請求

不合理価格追及キャンペーンでは、牛肉も取り上げた。朝スタジオに行ってみると、成牛が1頭いるのに驚いた。ただ、番組では肉牛の値段を問題にしたのに、ヨダレを垂らしてワラを食んでいたのは乳牛が主のホルスタイン種だったのがご愛嬌。

1989年当時、日本国内の国産牛肉の値段はロース100グラム662円。アメリカには100グラムなどというケチな統計はなく、10倍の1キログラムで2ドル57セント、当時の円レートで計算すると355円、100グラムにすれば35・5円だ。単純比較すれば日本の価格はアメリカの18倍以上だった。

生産者の代表みたいな人に来てもらって国産牛がなぜ高いか説明を聞いたが、繁殖農家が減り続けて子牛の値段が高くなっている上に、輸入物の多いエサ代が高い、広大な牧場に放牧するアメリカと違って日本の酪農家は1頭1頭ブラッシングし、ビールを与えるなど肥育に手間をかけている……などなど山ほど理由をあげて、結論的には「この値段は国産牛の宿命みたいなもの」というご託宣。当面、値段を下げる手立てのないことが判っただけだった。そんなやりとりを横目に、スタジオの牛はのんびりモーッ……。

ちなみに現在の価格はというと、デフレ浸しの日本では30年以上たっても35%しか上がっていない100グラム898円なのに対し、アメリカは倍以上も高くなってキロ729円。価格差がやや縮まったとは言え12倍以上だ。その「黒毛和牛」に近年外国で人気が高まっている。2021年の農産物輸出額は初めて1兆円を超え、うち500億円近くが牛肉だという。業界は「値段が高くても良いものは売れる」と意気軒昂。外国でもWAGYUを飼育するところが出てきた。変われば変わるものである。



コメ、牛肉など農産物より時期は少し遅くなったが、追及は電話料金にも及んだ。スタジオにNTTの幹部をキラ星の如く並べて質問攻めにした。私は当時、家庭画報という月刊誌に『あなたのための時事解説』という連載をしており、90年5月に書いた記事から抜粋。

NTTのコンピュータへの入力ミスによる電話料金の取りすぎが85年4月の民営化以降の5年間に18億4500万円に達した。少し前、横浜で1億2千万円の取りすぎが発覚したばかりで、まだ点検未了分が3割も残っているというから、最終的には25億円くらいに上るだろうという。ひどい話だ。ご存じの通り、NTTの料金請求はハガキで送られてくるだけで簡素なことこの上ない。銀行口座からの自動引き落としが多いから、仮に利用者が疑問に思ってもチェックのしようがない。問い合わせれば良いと言われても、こちらに然るべき「証拠資料」がない限り、正面切って争えるものでもないから、今回のように「取り過ぎがありました」と言われても、その数字が果たして正しいのかどうかさえ、利用者には確かめる術がない。現に、東京の城西地区で働く職員から「内部告発」と言える情報が寄せられている。「民営化直前に加入者データの電算化を急ぎ過ぎた。アルバイトを大量動員して入力したがチェックが大甘だった。いま行われているデータの突き合わせを社内ではF突合と呼んでいるが、1件1件のデータをすべてチェックしたら、もっと間違いが見つかるだろう。東京ではまだ1銭も返金していない」……いずれにせよ、私たち利用者は取られすぎをチェックする手立てがないのだから、NTTの沙汰をじっと待つしかない。仮にNTTがミスをほおかむりしてしまえば、取られすぎの取られ損ということになる。まことにもって、納得のゆかない話である……

利用者側にチェックの術がない、という点について、アメリカの電話会社の料金請求が、どれほど精緻で詳細を極めるか、同じ記事の中で述べている。

15年前、初めてアメリカに住んで、電話料金の請求書を初めて受け取った時の感動を筆者はおそらく一生忘れないだろう。それは分厚い封書だった。封を切り、ページをめくってゆくと、電話機のリース料金、市内電話料、市外電話料、国際電話料……など、項目ごとに手際よく数字が並んでいて、最後に支払うべき金額が表示されている。これだけでもNTTの料金請求に比べれば天地の開きがあるが、そのページをさらにめくると、ビッシリ示された明細に息の詰まる思いがしたものである。国際電話や市外電話だけでなく、市内通話に至るまで、筆者が契約している電話機から発信されたすべての通話について、相手先の番号と時刻、通話時間(秒表示)そして個々の料金が完全に記録されている。しかも、その最後には「この請求書に疑問の点があれば、次の電話番号にお問合せください」という添え書きまである。さらに電話会社への返信用封筒も入っていて、利用者は請求額分の小切手を切って封筒に入れ、切手を貼って投函すれば良いようになっている。明細も示さず、従って請求に誤りがあるかどうか知る由もなく、客の銀行口座から金を持ち去ってゆくNTTとは、人品骨柄がまるで違うと思ったものだった……

記事はさらに続く。

アメリカの電話会社のサーヴィスが優れているのは、請求書だけではむろんない。全米どこの公衆電話であれ、市内通話の最低単位分の硬貨(当時は10セント)さえ投入してゼロを押せば、間違いなく、「Operator, may I help you?」という肉声に接することができる。そこで、「Collect call to Tokyo please」とやれば、即座に東京との通話が可能で、通話が終われば初めに投入したコインが鮮やかな音と共に返ってくるのだ。緊急時にもゼロを押して「Emergency」と叫べば、そのまま警察の指令室に繋いでくれる……

スタジオに呼んだNTT幹部に、「料金請求に詳細な明細をつけるのはサーヴィス業の本義だ。それがなぜできない?」と聞いても、「人数さえかければできますよ。でもそうすれば料金がまた高くなります」と含み笑いをしている。本題の「電話料金の不正請求」についても、不首尾についての詫びはするが、原因究明にはヌラリクラリとかわすばかり。誠意というものを感じない。番組前夜に想定問答をじっくりやってきたであろう準備の周到さに舌を巻くだけだった。

読売新聞社会部で警視庁の捜査二課、四課を担当した時期があった。捜査二課は汚職や経済犯罪を取り締まる。夜回りで訪ねたベテラン捜査員の一人が、「電電公社というのは伏魔殿ですよ」と呟いた。中身は明かそうとしなかったが、「いまデカいヤマを追ってますがね」とも。民営化よりはるか前の時代で、贈収賄の立件を視野に入れての言葉だったから、「期待してますよ」と応じたが、この捜査は不発に終わった。捜査員の追及をうまいこと言いくるめたか、あくどい対策を講じて事件にさせなかったのだろう。

結局、前述の電話料金不正請求問題もウヤムヤのまま、人々の記憶から消えていった。 (つづく)

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