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よみタイムVol.95 2008年8月15日号掲載
歌手
大橋純子
NYにいると「トシ」感じないでいられる
「シルエットロマンス」「たそがれマイ・ラブ」などのヒット曲で知られる歌手の大橋純子さんが7月末から3週間の予定で、ニューヨークに滞在している。大橋さんとニューヨークの縁は深い。84年から86年までの3年間のうち、延べ17カ月間を住み、その後も何度となく訪れている。「来るたびに懐かしいわ」と言う大橋さんにとって、ニューヨークはどんな街なのだろうか。
>>>ヒット曲がたくさん出た80年代にニューヨークへ?
「シルエットロマンス」がヒットとした2年後の84年に、周りの反対を押し切って。デビューして10年たった頃のこと。9カ月住みました。この時はニューヨーク在住の日本人の知り合いが世話してくれたんです。最初の1カ月は、今日はミュージカル、明日はボイストレーニングにエアロビ、その次はオペラと、結構スケジュールが決められていて、一生懸命こなしましたね。
その後85年に3カ月、86年に8カ月くらい住んで、それ以降は毎年。9・11を挟んで少し開いて、03年から05年まで毎年。今回は3年ぶりです。
>>>ニューヨークと東京の違いって?
日本人って、ものすごく年齢を気にするでしょう? 私も来年デビュー35周年で、キャリア的には「ベテラン」「大御所」となるんですが、要するに「トシですよ」と追いやられちゃう。確かに体力的には落ちたし、酒も弱くなりましたけどね。
でも、ニューヨークでは若かろうとトシだろうと、誰も気にしないし、奇異な目で見られることもない。年齢に無関心なのではなくて、いい意味でみんなそれぞれ個々なんだと。
>>>今回の滞在での楽しみは?
MSGでのポリスを聴きに行きました。
ポリスには縁があるんです。86年に住んだ時に、ラジオシティーでコンサートを見ました。そのときのスティングはとても洗練されたイメージで、一緒にステージに上がりたい衝動に駆られたんです。あの時に、ああ、やっぱり私は歌手に戻りたいんだと分かりました。迷っていた時期がありましたから。スティングが私の進路を決めてくれたんです。3年前の滞在でもちょうどスティングがニューヨークに来ていたので、聴きに行きました。
>>>ニューヨークでコンサートを開かないんですか?
もちろんやってみたいですが、日米のレベルの差は相当あると思います。層の厚さが違う。
最初にニューヨークに来た時に、自分は歌手としてどうなのか、この先どうするのかと考える前に、挫折を感じました。それがよかった。これだけの差を見せ付けられて、冷静に見ることができるようになったんです。
スティングを見たときに、歌手に戻りたいと思ったけれど、同時に、私が歌手としてステージに立てるのは日本だと思いました。そういう意味で、冷静に自分の位置を見ることができたのはよかった。好きな歌を好きだと思う気持ちが大事。あるがままの自分でやっていけばいいんだと思えるようになった。
>>>ライブハウスで飛び入りで歌うとか?
86年に住んでいたときに、52丁目とセカンドアベニューのイタリア料理屋によく行ったんです。そこにはピアノ弾きがいて、いつか歌おうと思ってた。ある時すっぴんで野球帽をかぶって食べに行き、「歌わせて」と言うと、子どもと間違われてるのは明らかで、「この小さい子が歌いたいって言うけど、みんないい?」ってほかのお客さんに聞くんです。バカにしてるな、と思いましたね。(笑)
英語で歌えた唯一の曲「オール・オブ・ミー」を歌い、ワンコーラスの後にピアノのソロを振ると、その頃にはピアニストの目はまん丸、一生懸命弾いてるのが、結構笑えました。楽しかった。
>>>在米邦人向けのコンサートは?
希望があればぜひ歌いたいです。84年には、ウォルドルフアストリアで在米邦人の皆さんのためにコンサートを開きました。去年はサンフランシスコの日本商工会議所に招待してもらい、コンサートを開きました。将来ニューヨークで機会があれば、ぜひやりたいですね。