2018年3月16日号 Vol.321
ニューヨーク留学体験記

「地方公務員」発、
「国際公務員」行き

僕はつい数ヵ月前まで、地方公務員として日本で働いていた。いわゆる市役所のお兄さんだ。地域の困りごとを解決する仕事にやりがいを感じていたし、家族や友人と楽しい日々を過ごしていた。
そんな僕がニューヨークに留学した理由は、国際公務員になるためだ。現在、大学の付属機関で研究員として評価学を学びながら、国連に関係する機関でインターンとして経験を積んでいる。
国際公務員という存在を初めて意識したのは13歳の頃。当時はサッカーに夢中で、ミーハーな僕は見事にJリーグ開幕のブームに乗っかった。何より、サッカーが上手いとイケてる男子の一員になれるのではないかという淡い期待が、自らの向上心(下心)を支えていた。中学校が春休みに入ると、武者修行のためにサッカー王国ブラジルへ向かった。ちなみに、この不純な動機に基づく留学費用は、母が大事にしていたピアノを売って工面してくれた。なんと親不孝な息子だろうか…。
ブラジルでは、目の前で起きること全てが新鮮だった。チームメイトはドラム缶に溜めた雨水で練習後のシャワーを浴びているし、公園にいる子どもたちは靴を履かずに裸足でボールを蹴っている。生まれて初めての海外で見た彼らの日常は、肝心のサッカーよりも衝撃的だった。極めつけは、チームメイトも住むという「ファベーラ」と呼ばれるスラム街。日本とはかけ離れた光景に「授業で習った開発援助はどこにいったんだぁ〜!」と、教科書と現実とのギャップに膝から崩れ落ちた。数秒後、子どもながらに浮かんできた冷静なツッコミ。「おいおい、ここの市役所はいったい何をやっているんだよ」
あれから18年、僕はまだ国際公務員にはなっていない。しかし、あの時感じた行政の役割や重要性を日本で実感し、富士山くらい山盛りの経験を積んで、ニューヨークに来た。ところが、到着してわずか数日で、日常生活ですら上手くいかない経験を、エベレストくらい山盛りに積んでしまった。地下鉄のメトロカードはうまくスワイプできずに残高だけが異常に減っていくし、4ドルくらいと聞いていた屋台のチキンオーバーライスは6ドルに値上がり。きっと「オーマイガー!」とはこういう時に使う言葉なんだろう。
それでも僕は、生きるために今日もチキンオーバーライスの屋台に通う。馴染になった屋台の兄ちゃんは、僕の注文を待たずして僕好みにカスタマイズされたチキンオーバーライスを用意してくれる。これは「チキンオーバーライスイエローライストマトレタスBBQソース」という呪文を毎日、彼の前で唱え続けた成果なのである。
次回は、こんな僕の留学を実現させてくれた奨学金制度「トビタテ留学JAPAN」を紹介したい。(燒リ超)


国連本部と屋台(Photo by Kosumo Takagi)



Copyright (C) 2018 YOMITIME, A Division of Yomitime Inc. All rights reserved