2019年1月25日号 Vol.342

名門男子校でのいじめと友情
渾身のゴスペルが響く
「クワイア・ボーイ」

クワイア・ボーイ
歌と踊りで感情を爆発させる生徒たち All photos by Matthew Murphy, 2018. (l to r) Nicholas L. Ashe, Jonathan Burke, J. Quinton Johnson, Jeremy Pope, Caleb Eberhardt, John Clay III, Gerald Caesar

クワイア・ボーイ
ベテラン教師は聖歌隊をまとめようとするが… (l to r) the cast of Choir Boy on Broadway, Austin Pendleton

クワイア・ボーイ
フェラスとデイヴィッドはかつてルームメイトだった (l to r) Jeremy Pope, Caleb Eberhardt


「クワイア・ボーイ」は不思議なパワーを持った作品だ。物語は比較的シンプルであるにも関わらず、観劇後なんともすがすがしいカタルシスに包まれていた。ストーリーテリングだけでは到達し得ない高みへと連れて行ってくれたのは、魂をふりしぼるようなゴスペルの力である。このパワフルな音楽劇は、1月初旬に開幕するやいなや各方面から称賛を得て、公演の延長まで決まった。
また、2017年にアカデミー賞を受賞した「ムーンライト」の原作者の劇作家タレル・アルヴィン・マクレーニーの初のブロードウェイ作品としても注目を集めている。アカデミー賞の白人偏重が「白すぎるオスカー」と批判を受けた翌年、貧困家庭出身のアフリカ系アメリカ人青年のストーリーが、「ラ・ラ・ランド」を抑えて受賞したことはハリウッドの歴史的な一コマとなった。

優秀な黒人子弟がが集まる名門寄宿制プレップスクール。抜群の歌唱力を持つフェラスは聖歌隊のリーダー。カトリックスクールの在校生でありながら、彼はゲイであることを隠そうとしない。聖歌隊のメンバーでホモフォビアのボビーはそんなフェラスを目の敵にし、執拗にいじめまがいの行為を繰り返す。奨学生のデイヴィッドは牧師を目指しているが、信仰に葛藤を抱えていた。フェラスとボビーの対立に困惑した校長は引退した教師を聖歌隊の顧問に付けるが、ある日事件が起きる…。

非営利演劇団体マンハッタン・シアター・クラブの制作で2013年にオフで初演され、今回ブロードウェイに進出。人種問題とその歴史、キリスト教と同性愛などのテーマがユーモアとペーソスを交えて綴られ、若干説明不足な部分もトリップ・カルマンの手堅い演出がカバーしている。
最大の見どころは、場と場の間に入るゴスペルだ。全曲伴奏なしのアカペラで、ソロからハーモニーが重なって行く様は鳥肌が立つほどの迫力。歌は物語とは直接関わりを持たないものの、人物たちの感情を増幅する役割を果たす。ブラック・スピリチュアル(黒人霊歌)や賛美歌がメインで、スクールの校歌は賛美歌の「主のことばの光のうち(Trust and Obey)」。母親の死がトラウマになっているボビーが歌う黒人霊歌「時には母のない子のように」の哀切さに客席からは鼻をすする音も聞かれた。
歌の場面には、手足を打ち鳴らして全身を打楽器のように使う「ステッピング」風の振付(カミール・A・ブラウン)も入る。物語上は反目し合っていた生徒たちが一丸となって歌い踊る姿は、彼らの中の共通のアイデンティティや団結を感じさせる卓越した構成である。また、ゴスペルの持つ祈りのエレメントから、生徒たちは奴隷として苛酷な人生を生きた祖先と交信している霊的な存在であるような錯覚さえ覚えた。
そして言わずもがな、俳優陣が素晴らしい。主人公のフェラス役は初演と同じジェレミー・ポープ。キュートな外見に歌唱力と演技力を兼ね備え、この春にはテンプテーションズのジュークボックス・ミュージカル「Ain't Too Proud」にも出演が決まっている。本作が2月24日に閉幕したら28日からはこちらのプレビューが始まるという多忙ぶりだ。ボビー(J・クイントン・ジョンソン)ら他のキャストも個性ある実力派が揃っている。

劇中、黒人霊歌の中に奴隷の逃亡ルートのヒントとなる暗号が隠されていたという説についてフェラスが主張する。「音楽には聴く者に勇気と喜びを与える力があり、それは過去の奴隷たちに限らず、今の自分たちにとっても同じである」と。
そのフェラスの言葉が最も響いたのは、間違いなく我々観客だろう。(高橋友紀子)

Choir Boy
■2月24日(日)まで
■会場:Samuel J. Friedman Theatre
 261 West 47th Street
■$30〜
■上演時間:1時間35分
choirboybroadway.com


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