2023年01月27日号 Vol.438

芥川龍之介作品に魅了
日米で異なる捉え方描く
作曲家 デヴィッド・ラング

公演前にJSで「日米の文化交流に繋がる作品を手がけたい」と話すラング氏(Photo by KC of Yomitime)

ジャパン・ソサエティー(JS)舞台公演部は1月12日から15日まで、東京文化会館との共同委嘱・共同制作した新作オペラ「note to a friend」を上演した。

作曲を手がけたのはピューリッツァー賞受賞の作曲家、デヴィッド・ラング氏。芥川龍之介の作品を基に舞台には歌手がひとりというユニークな構成だ。リブレットも手がけたラング氏は、「死」、「愛」、「自殺」といった複雑なテーマに挑んだ。



「私が初めて日本の文学作品を読んだのは16歳、それが芥川龍之介の小説『羅生門』でした。『生きるための悪』という人間の利己主義を克明に描き出した傑作です。その後、多くの日本人作家の作品を読み、最近では村上春樹や小川洋子の作品が好きですね。ジャパン・ソサエティーから日本に関するオペラ作曲の依頼を受けた際、日本文化や歴史はもとより、日本人作家の作品を基に制作しようと思い立ち、初めて読んだのが芥川だったこと、最も印象に残っていたことなどから、彼の作品を題材に同プロジェクトに挑みました」

本作「note to a friend」のプロモーション・ビデオで、「芥川龍之介のファンです」と語るラング氏。日本人でも難解な心理を描いた芥川の魅力とは何だろうか。

「深層心理の描写や人間のエゴイズムに焦点をあてた芥川作品は、なかなか理解するのも難しいとは思います。実のところ、人間であれば誰もが感じ、経験することが描かれているものの、万人が『共感』する訳ではありません。「Autumn Mountain(秋山図)」は好きな芥川作品で、当初、候補作品のひとつでしたが、やはり理解するのはたやすいことではない。ですが、その複雑さ、奥深さが、私が芥川に魅了される理由のひとつです。『note to a friend』の核心=なぜ彼は死ななければならなかったのか、なぜ自殺したのか=。彼は友人に手紙を書き残しましたが、その真意は作家・芥川のみぞ知る…そんなミステリアスなところも魅力です」

芥川作品の他、映画では黒澤明監督が、音楽では武満徹が好きだという。

「アメリカで日本の知名度は高くなっています。特に、日本アニメの影響で興味を持つ若者が増えて、私の娘もその一人です。この国は、多民族・多文化が共存している一方で、民族間の衝突も多い。やはり、お互いを理解し尊重し合うことが大切だと痛感しています。本作は、『自殺』について表現しましたが、日米でその捉え方は異なるでしょう。芥川の小説を元に、日本人ではない私の解釈も盛り込み仕上げました」

親日家で、多くの日本人・日系人と交流を持ち、作曲家の久石譲氏とも親交があるというラング氏。

「『音楽家』という職業は国境を超え、多様で多才な人々と親睦を深めることができます。今後もチャンスがあれば、日米の文化交流に繋がるような仕事をしていきたい」と結んだ。


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