2020年2月7日号 Vol.367

楽しさ満載!
ホラー・コメディの決定版
「リトル・ショップ・オブ・ホラーズ」


新しくシーモア役を演じるギデオン・グリックと、一回り成長したオードリーII Gideon Glick (All Photos by Emilio Madrid-Kuser)


サド歯医者はオードリーIIの餌食に…(写真のシーモア役はジョナサン・グロフ) Jonathan Groff and Christian Borle in Little Shop of Horrors


進行役の女性トリオ。シュープリームズを彷彿とさせる (l to r) Ari Groover, Joy Woods and Salome Smith


「リトル・ショップ・オブ・ホラーズ」のリバイバルがオフブロードウェイで公演中だ。オンの一流どころを集め、昨年10月の開幕後、チケットは499ドルまで高騰。1月半ばに人気俳優ジョナサン・グロフ(「ハミルトン」)が降板し、やっと手の届く価格帯になったため、遅まきながら観て来た。
原作は1960年のB級ホラー映画で、人喰い植物が登場する風変わりなダーク・コメディ。1982年にミュージカル化されてオフでロングランとなり、世界中で繰り返し上演されて来た人気作だ。筆者も2003年のブロードウェイ公演を観ている。なのに、「面白かった」という記憶がなく、このリバイバルも最初は「別にいいや」と思っていた。ところが、今回の公演は、このミュージカルの持ち味を最大限に発揮した楽しさ満載の舞台だったのである。

花屋の店員シーモアは、地味で内気だが優しい心を持つ青年。同僚のオードリーに恋心を抱いている。が、オードリーは歯医者のDV男とずるずると付き合い続けていた。店主から売り上げを増やさねばクビだと脅され、シーモアは謎の植物「オードリーII」を店に飾ることに。しかし、オードリーIIはヒトの血と肉を養分とする人喰い植物だった。シーモアが指を切って血を与えると、みるみる成長。奇怪な植物をひと目見ようと詰めかけた客で花屋は大繁盛し、シーモアも一躍有名人に。だが、「エサをよこせ〜」と騒ぎ出したオードリーIIに困り果て…。

ロックにドゥーワップ、モータウンを取り入れた音楽はその場で口ずさめるほどキャッチー。それもそのはず、作詞作曲はハワード・アシュマンとアラン・メンケン。本作でディズニーに見出され、「リトル・マーメイド」、「美女と野獣」、「アラジン」と大ヒット作を生み出した黄金コンビだ。
加えて、荒唐無稽な物語を彩る遊び心が楽しい。R&Bグループさながらに歌と踊りで進行係を務める女性トリオはそれはコミカル。人喰い植物はパペットで表現される。最初は手の平サイズ、次にひと抱えの大きさになり、最後には4人の人形遣いが操作する巨大パペットに変貌し、舞台からはみ出すほどの迫力。
サディストの歯医者、花屋の客など10以上の役を演じるのは、ブロードウェイきってのコメディ俳優クリスチャン・ボール。出るたびに爆笑で場面をさらう。幸せには手が届かないと知りながら儚い夢を抱くピュアなオードリーを演じたタミー・ブランチャードの演技も心に残る。
そしてシーモア役をジョナサン・グロフから引き継いだのは、「アラバマ物語」でトニー賞にノミネートされたギデオン・グリック。オタクっぽい外見といい、シーモアははまり役だ。とはいえ、やっぱりグロフのシーモアも観たかったけれど。

観劇前に196 0年の映画を駆け足で見たが、ドラマツルギーに則った丁寧な改変がミュージカル版に施されていることに舌を巻いた。映画ではぶっ飛んだキャラばかり(それはそれで面白いにせよ)だが、舞台版には観客が共感できる人間的な厚みが加わった。資本主義社会への皮肉もしっかり込められている。作詞に加えて脚本とオリジナル版の演出もアシュマンだった。彼が40歳にしてエイズで命を落とさなければ、ミュージカル界にどれほど貢献してくれたことだろう。
本作の面白味を抽出した演出のマイケル・メイヤーはインタビューで、「アシュマンの演出がいかにすぐれたものであったか…この舞台は彼へのオマージュである」と語っている。

これだけ人気ならきっとブロードウェイに上がって来るだろうとたかをくくっていたが、観てよく分かった。これは270席のオフの劇場でなければならない舞台なのだ。このミュージカルとオフブロードウェイの魅力を再発見した。(高橋友紀子)

Little Shop of Horrors
■2020年3月15日まで
■会場:Westside Theatre
 407 W. 43rd Street
■$29〜
■上演時間:2時間
littleshopnyc.com



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