2020年2月21日号 Vol.368

「One Green Bottle」ニューヨーク公演
「身体」というアナログを使ってこその「演劇」
野田秀樹

野田秀樹(東京芸術劇場芸術監督)作・演出・出演の「One Green Bottle」がラ・ママ実験劇場で上演される。全8回公演。これまでに野田氏が手掛けた英語戯曲は「RED DEMON」「THE BEE」「The Diver」で、本作は4本目。物語は、父、母、娘の3人家族が、ある夜、それぞれの理由で外出しようと試みるが…。8年ぶりのニューヨーク公演を控えた野田氏に話を聞いた。



前回公演より(撮影:篠山紀信)


Q:演劇の世界に傾倒したきっかけをお聞かせください。

野田:高校生の時に、芝居に出会いました。学校内で中庭にあった噴水のところに座っていたら、「野田君、演劇部に入らないか?」と言ってきた友人がいて、「先輩はたくさんいる?」「いない。潰れそうなんだ」と。先輩がいなくてつぶれそうだったら、好き勝手やれると思い、入ったのがきっかけです。男子校だったため、男だけが出る芝居を探すと、不条理ものが多い。退屈だったので、自分で書いてみたのが劇作家になるきっかけ。でも、はじめて書いた芝居は結局、不条理なものでした。

Q:タイトルの「One Green Bottle」は、イギリスの数え歌「Ten Green Bottles」(10本のボトルが1本ずつ減っていき、最終的には無くなる)から「One Green Bottle」にされたそうですね。名付けた理由は?

野田:私は、モノもコトバもあらゆることが過剰に消費・浪費されているような、「都市」での生活を送っています。この「One Green Bottle」で、だんだんと数が減っていくという歌詞に、私達が暮らしている「便利な世の中」の先行きが描かれている気がして、それを芝居タイトルに決めました。

Q:日本語タイトル「表に出ろいっ!」の由来は?

野田:「表に出ろいっ!」は、初演日本版の役者、十八代目・中村勘三郎の口癖です。「表に出ろいっ!」と言いながら、表に出られなくなっていく人間を描いた題名として、ぴったりだと思いました。

Q:「表に出ろいっ!」を英語版にした最大の理由は?

野田:「THE BEE」と「THE DIVER」では、英国の役者たちと芝居をし、英国でも好評。楽屋で「次は何をやる?」という話が弾んだ中、自分の書いた作品の中で少人数でやれるものとして、「表に出ろいっ!」を候補に上げ、ワークショップを重ねました。その内、この作品は、いずれの国の共同体も同じように抱えている問題を内包している、という結論に達し、英語版でも上演することにしました。

Q:父親役が女性のバウワーさん、母親役が男性の野田さん、娘役が男性のプリチャードさんと、演じる性別が逆。このアイデアは?

野田:(2017年上演時)キャサリン・ハンターとグリン・プリチャードの出演は決まっており(今回の父親役はリロ・バウワー)、後は、私を含めた三人で、誰がどの役を演じるのが一番しっくりいくかを、ワークショップで試したりもしました。ですが結局、はじめの予想通り、男女を完璧に入れ替えることが最もおもしろい、ということになりました。

Q:日本語の芝居を英語にする点で、苦労されたことなどありますか?


野田:はじめから「英訳」という発想がありません。「表に出ろいっ!」を叩き台として、そのエッセンス(例えば、三人それぞれが、外出するために、如何にエゴイスティックな理由と、こじつけをするかといった部分)に集中して作りました。日本で作った芝居をそのままなぞるという作り方をしていないので、「芝居を作っていく過程の苦労」は、日本での苦労と全く変わりません。

Q:海外で上演した際、日本の観客と反応が異なる点など教えてください。

野田:当り前の話ですが、日本、韓国、ルーマニアで上演をした時は、英語が分からない観客が大多数ですから、こうした喜劇性の強い芝居では、笑うポイントが少しずれてきます。吹き替えや字幕を使うと、「英語が分かる人」と「分からない人」とが、同じことで二度笑ってくれるので、演じる側としては、やりにくくもありますが、得した感じもあります。

Q:ニューヨークの客層やシアター、演劇を取り巻く環境などに、どういう印象をお持ちですか?

野田:どうでしょうか? ニューヨークに限らず、世界的に「舞台」というものが、「映像」に寄りすぎているように感じます。特に近年は、「映像」を駆使した「舞台」が多く、私はそういうのを見るとフラストレーションがたまる方で、「身体」というアナログの最たるものを使ってこそ演劇なのに…と思いながら、世界的な状況を見ています。

Q:最後に、野田さんが目指す「演劇」とは。

野田:前述した通り、「目指す演劇」ではなく、演劇とは、元々そういうもので、昔も、これからも変わらないと思っています。「新しい技術」はすぐに見飽きることになりますが、「身体」というアナログを見飽きることはありません。

One Green Bottle
■2月29日(土)〜3月8日(日)
 月〜土7:00pm、日5:00pm、火曜休演
■会場:La MaMa Experimental Theatre Club
 66 E. 4th St. (bet. Bowery & 2nd Ave.)
■一般$35、学生/シニア$30
■ボックスオフィス:TEL: 212-352-3101
 劇場内Mezzanine Level 1※開演1時間前オープン
lamama.org



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