2019年3月15日号 Vol.345

[連載(5)完]
激動する国際社会
内田忠男
(国際ジャーナリスト / 名古屋外国語大学・大学院客員教授)

内戦、地球温暖化、核兵器拡散<


国際テロリズム

冷戦終結直後からイスラム過激派のテロが続発。頂点に達したのがウサーマ・ビン・ラーディン率いる アルカイダによる2001年9月11日の同時多発テロであろう。アメリカは、対テロ戦争に乗り出したが、その後も類似事件が各地で続発、むしろ活発になるばかりだ。
テロの厄介さは、Jihad(聖戦)を掲げた自爆テロが多いこと。命を捨てる覚悟で実行されるテロは、防止困難。さらにIS(Islamic State of Iraq and Syria)の出現で、点の攻撃から面の支配も目指し始めた。欧米諸国からも戦闘員をリクルート。「アラブの春」の端緒となったチュニジアでは民衆が非暴力のデモ行進で長期独裁政権を退陣に追い込んだ。14年に制定された新憲法は、アラブ世界で初めて「男女平等」を明記、「信教の自由」にも踏み込んだ。そのチュニジアでも、狂信者たちは厳格なイスラム法支配を要求、 ISに参加した戦闘員は3千人、うち約400人が戦闘経験を積んで帰国、イスラム法支配国家を狙っている。15年3月のチュニスでの博物館銃撃テロ事件は正にその産物であった。

サイバー・テロ

インターネットのサイバー空間を利用したテロ・諜報宣伝行為は、個人、企業から政府も絡んで活発化している。国として活発なのはロシア、中国、北朝鮮など。アメリカは専ら自衛手段として行っているケースが多い。
ロシアによる201 6年大統領選挙への介入が問題化しているが、昨年の中間選挙でも様々な形で世論操作を試みていたようだ。ロシアは他にもウクライナに対し集中攻撃をしている。
中国は、以前からアメリカの先端技術や知識を盗むことには活発に取組み、最新のステルス戦闘機・爆撃機や原子力潜水艦の装備などで秘匿の壁を破ったケースが多い。2017年6月に施行された中国の新法「国家情報法」は、効率的な国家情報体制の整備を目的に掲げ「いかなる組織および個人も、国家の情報活動に協力する義務を有する」と明記している。例えば、アメリカにいて、先端技術情報に接している中国人に、中国政府の機関が、その情報を盗み出せと命じれば、その中国人は拒むことが出来ない。在米中国企業でも同じことだ。スパイ行為を公然と奨励している法律なのである。
北朝鮮は、ソニーのサイトに侵入、システムそのものをダウンさせるなどの行為をしたことが明らかになっている他、外国金融機関に侵入して違法に外貨を獲得するなどの工作をしている。

こうした状況下、昨2018年秋頃からアメリカがようやくサイバーテロ対策と本気で取り組み始めた。
9月、中国の機密窃取、ロシアのフェイク情報を交えた選挙干渉・政治干渉などが活発化しているほか、北朝鮮、イランなども攻勢を強めていることを念頭に、アメリカも攻撃的に対処する、つまり強力に反撃するという新サイバー戦略をまとめた。
12月以降は、アメリカの知財・機密窃取の主力とされる中国の通信機器最大手、華為技術(フアウエイ)や中興通迅(ZTE)など5社との取引を停止、米国内から排除する動きを始め、年が明けてからは、フアウエイの最高財務責任者・孟晩舟(Meng Wangzhow)や、中国人ハッカー集団らの刑事訴追も強化している。
こうしたアメリカ政府の動きは、機密情報を収集し交換共有するネットワークFive Eyes(ファイブアイズ:米国、英国、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドの5ヵ国)にも強い影響を及ぼし、強い絆のもとでサイバー攻撃に対処・反撃する体制が整いつつあり、フアウエイ製品を多く使用している日本、ドイツ、イタリアなどへの説得も始めた。日本は事実上、政府調達からフアウエイ製品を排除する方針を決め Five Eyesと歩調を合わせている。
今後は、こうした西側諸国の動きに中国がどう対応するか、新たな戦術の動向が注視される。ということは、サイバー戦争は、むしろこれから本番を迎えるということだ。(一部敬称略)


HOME