2019年3月29日号 Vol.346

日本人の感性生かした
自分ならではのギター
ジャズギタリスト 高免信喜

高免信喜


広島市で生まれ育ったジャズギタリスト高免信喜(たかめん・のぶき)。東京、ボストン、ニューヨークと拠点を移しながらも、決して故郷への想いを忘れず、旅の途中で見かけた情景をメロディにし、一歩一歩、音の足跡を残していく。

高免がギターを始めたきっかけは、14歳の時にラジカセで聞いたサイモン&ガーファンクルの「サウンド・オブ・サイレンス」。この上ない美しいギターのイントロを聴いた瞬間、衝撃が走った。「この音が鳴る楽器をやりたい!」お年玉をかき集め、近くのリサイクルセンターで1万円程のアコースティックギターを買った。実はギターに出会うまで高免は、小学5年で始めた器械体操に熱中しており、小学6年には広島市の大会で1位になるほどの実力を兼ね備えていた。しかし、中学1年の時に複雑骨折で思う存分打ち込めない状態に。そんなこともあってギターの運指練習は音楽を演奏するというより、どちらかといえばスポーツの機械体操の延長だったという。
その後、ジミ・ヘンドリックスの音楽と出会い、エリック・クラプトンをきっかけにブルースにのめり込む。さらに、レッド・ツェッペリン、ディープ・パープル、アイアンメイデンと、ブルースからロック、そしてヘヴィメタルと、ギターの器械体操は激しさを増していく。骨折した息子を気遣った両親が「ぐれないように」と、高校の入学祝いでエレキ・ギターを買い与えたこともあり、高校2年の時は、速弾きの代名詞とも言える高崎晃が在籍するラウドネスに夢中になった。
その頃、交換留学でオレゴン州へ行き、アメリカを体験したことで英語に興味を持ち、その思いは、その後のバークリー音楽大学(ボストン)での3年間に繋がっていく。大学ではプロフェッショナル・ミュージックを専攻し、作曲、編曲、アドリブを学んだ。それまで独学だった高免は、エリートばかりの環境に強い刺激を受ける。お酒が好きだったギタリストは、在学3年間は断酒をし、音楽漬けで、ギターに酔う毎日を送った。
卒業後は、ジャズのメッカ、ニューヨークという新天地で活動を開始。「日本というより広島に、いつかは帰りたい」という高免だが、ニューヨークを拠点にカナダ、クロアチア、フランスなど活発にツアーを続けている。バンドで周ることもあればソロで一人旅もある。「一人ツアーの時は寂しいものですよ」と笑うが、それでも「いろいろな国を周り、新しい人たちと出会って、様々な景色を見て、音楽を作っていく」という思いは変わらない。
そんな彼にはこだわりがある。それはオリジナル曲を作り続けること。これまでのアルバムに収録した曲は「スカボロフェア」と「赤とんぼ」を除き、全て自分で書き下ろした曲ばかり。そして、もう一つのこだわりが「MADE IN JAPAN」。最新アルバム「The Nobuki Takamen Trio」は、過去に在米経験がある日本人ミュージシャンと日本で録音した「純正日本ジャズ」だ。
ギター、ベース、ドラムのトリオがサーキットでレースをするかのようにリズムと音符が錯交するするオープニング「The Circle Game」で始まり、北欧ヘルシンキへの想いを情感たっぷりの旋律で綴った「Helsinki Sky」、懐かしい昭和歌謡を彷彿させる心温まる「3AM」と続く。日本人の思いやり、優しさをギターで繊細かつ美しく奏でる「Wonderful Days」は必聴。ブラジルのショーロ「Tico-Tico No Fuba」へのオマージュが感じられる「A-Tico-Ta」、高校時代から慣れ親しんだブルースが軽快にスウィングする「Blues Alberta」など、ボーディドリー・ビートに乗ってギターがけだるく、ワイルドにグルーヴする「25」、高免信喜のジャズギターが思う存分堪能できる。

2009年、ソロ・ギターで初出演したモントリオール・インターナショナル・ジャズフェスティバル。アル・ディ、メオラ、ビル・フリーゼル、ジェフ・ベックという錚々たるギタリストと共に並んだ自分の名前。「吐き気がするほど緊張しました」という高免を落ち着かせたのは一つの思いだった。
「彼らにない日本人の感性が活かされた僕ならではのギター、今この瞬間、一音一音に集中して、メロディーを奏でればいいんだ」
物腰の柔らかい口調の中に、ギターに対する熱い想いがひしひしと伝わってきた。
ブルーノートで開催されるニューアルバム発売記念コンサート。日本人ジャズギタリストとして、長年培ってきた高免信喜のジャズギターの真骨頂が聴けるだろう。(河野洋)

■3月31日(日)11:30am/1:30pm
■会場:Blue Note
 131 W. 3rd St.
■Tel:212-475-8592
■$39.50(ブランチ/1ドリンク込み)
www.bluenotejazz.com


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