2018年5月11日号 Vol.325

ロックバンドとオーケストラ
ゲーム音楽で繋ぐ「VGO」
プロデューサー/作曲・編曲家/ギタリスト Shota





ロックバンドとオーケストラ。水と油のような二つをゲーム音楽で繋ぎ、ライブコンサートで世界中のファンを魅了する「VGOビデオゲーム・オーケストラ(VGO-Video Game Orchestra)」(以下VGO)。そのダイナミックなロックオーケストラの総指揮者が、音楽プロデューサーのShota(仲間将太:なかま・しょうた)だ。沖縄生まれのロッカーが、今、世界をエンターテインする。

プロデューサーのほか、作曲家、編曲家、ギタリストと様々な顔を持つShotaは、沖縄県那覇市で生まれた。「普通に沖縄の人です」という仲間は米国に渡る18歳まで、裏庭にはパパイヤやバナナが茂る南海の小島で過ごした。小学生になると近所のピアノ教室に通うが、「男らしくない」習い事が苦痛になり、中学でやめ、その頃から学校へ行くこと自体が面白くなくなったと言う。「興味がないことをしたくなかったんです。何故、この人たちと一緒に勉強しなくてはいけないのか? どうして、この人たちから教えてもらわなくてはいけないのか?」次第にそんな疑問が大きくなり、不登校の日が増えていく。
そんな頃、衝撃な出会いが訪れる。イギリスのハードロックバンド、ディープ・パープルの出現だ。「がっつりパープルにハマった」というShotaは即座にギターを始め、音楽にどんどんのめり込んでいく。ヘヴィメタルも、LA、ジャーマン、シンフォニックなど、メタルというメタルを聴きまくる。ギター、バンド、ロック。音楽を真剣に勉強したいと思うShotaの目は、次第にアメリカへ向けられる。学校は好きではなかったが、目標を決めた後は、大学入学資格検定を取り、留学費の支援を父親に懇願。「勉強するならチャンスをやろう」と言う父のサポートを得て、海を渡った。

英語は名前しか書けなかったというShotaは、母の知り合いをつてに、シアトル郊外のピアス大学のESLコースで、韓国人のおばちゃんがいたレベル1から英語の勉強を始める。ゼロからのスタートだったからか吸収は早く、1年後には大学入学。紆余曲折あったが先生に進路を聞かれ、咄嗟に口に出たというバークリー音楽大学に合格。2005年にシアトルからボストンへ拠点を移した。
バークリーでは映画音楽作曲科を専攻したが、沖縄時代からのロック魂は消えることがない。そんなある日、転機が訪れる。それは「ただの思いつきだった」というゲーム音楽をオーケストラでライブ演奏するものだった。日本では誰もがドラゴン・クエストなどを楽しんだゲーム世代に育ったShotaにとって、ゲーム音楽は子守唄のようなものだった。
ゲーム音楽のオーケストラ・コンサートは他にも「ゼルダの伝説」や「ファイナル・ファンタジー」など幾つかあるが、VGOの特徴は、ロックバンドが主体という点だ。さらにシンガーをフィーチャー、正にロック・バンドとオーケストラの融合だった。「ゲーム音楽だけだとサントラと変わらないし、客層は広がりません。コンサートはお客さんを楽しませてなんぼの世界なのです」そして、その狙いは見事に的中する。
初めてのコンサートは、バークリーの学生ミュージシャンに声をかけ、ボストン市内で安価でレンタルできたチャペルで行われたが、200人以上を集め、満員御礼の大成功。VGOはコンサートを重ねるごとに話題を呼び、ファンがどんどん増えていった。今では、アメリカはもとより、日本、中国、メキシコなど世界をツアーするまでになる。「VGOの成功は、時の運だったのではないでしょうか。あと、やはり自分たちが楽しんでやっていることが観客にも伝わっているのだと思います。いつも演奏メンバーに、ライブは音楽だけではダメ、50%が音楽、50%がエンターテインメントだ、と話しています」
Shotaはこれらの経験と自らのキャリアを活かし、ボストンを拠点に置く音楽総合制作会社「SoundtRec Boston」を立ち上げ、作曲、編曲、オーケストレーション、レコーディング、演奏者の提供なども行っている。

そのShota率いるVGOが出演する「カプコンライブ!」のニューヨーク公演が6月9日(土)、アーヴィング・プラザで行われる。日本のゲーム会社カプコンが発表したヒット作「ストリートファイター」や「バイオハザード」などのゲーム音楽が、ロック・オーケストラとなって蘇る。シンフォニック・メタルが大好きというShotaのメロディアス且つスリリングなアレンジも冴える。
「次はブラジルを制覇!」と目標を見定めているShotaだが、最近考えることは、自分のオリジナルで4人編成のロックバンドを結成すること。依頼された仕事は基本的に何でもやるという積極的な姿勢を崩さない彼は、最近ではALS病と闘う不運の天才ギタリストジェイソン・ベッカーの新作にも参加している。

故郷の沖縄は、今やバケーション地のように感じるくらいアメリカが板についてきたが、時折「沖縄に帰ってきて島に貢献しないのか?」と言われることがあるそうだ。しかし、自分がボストンを拠点に海外で活躍することが、逆に日本や沖縄の為になる、と固く信じて我が道を進むShota。彼の音楽とロック魂は、いつか、海を越え、国境を越え、日本の若者たちに夢を希望を与えていくだろう。(河野洋)

Capcom Live in NYC
■6月9日(土)7:00pm
■会場:Irving Plaza
 17 Irving Pl.
■$37〜
www.capcomlive.com



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