2019年5月17日号 Vol.349

ニューヨーク・アングラ界の巨匠
暴力や犯罪の裏に見え隠れする「贖罪」
「アベル・フェラーラ アンレイテッド」

キング・オブ・ニューヨーク
クリストファー・ウォーケンが主演した「キング・オブ・ニューヨーク」King of New York. 1990. Italy. Directed by Abel Ferrara. Courtesy Seven Arts/Photofest

バッド・ルーテナント
悪徳警部補が主人公の「バッド・ルーテナント」Bad Lieutenant. 1992. USA. Directed by Abel Ferrara. Courtesy Aries Films/Photofest

ウェルカム・トゥー・ニューヨーク
実際の事件がモデルとなった「ウェルカム・トゥー・ニューヨーク」Welcome to New York. 2014. USA/France. Directed by Abel Ferrara. Courtesy IFC Films/Photofest


ニューヨーク近代美術館(MoMA)で5月末まで、アメリカの映画監督・脚本家のアベル・フェラーラが手掛けた作品を紹介する「アベル・フェラーラ アンレイテッド」が開催中。
イタリア人の父とアイルランド人の母の下、ブロンクスで生まれたアベル・フェラーラ。移民、芸術家、ミュージシャン、学生など、貧しく殺伐とした都市環境が、フェラーラの感性や「モノを見る目」を形成、「ニューヨーク・アンダーグラウンド界の巨匠」と評されている。暴力や犯罪をテーマにしたその背景に、キリスト教の「贖罪」が見え隠れする。
同上映会では、初期から最新作まで、50年近いフェラーラのキャリアを包括。残りの日程から、いくつかを紹介しよう。

「キング・オブ・ニューヨーク」は、マフィアのボスが、戦いながら野望を達成しようと奮闘するバイオレンス。5年ぶりに出所し、故郷のサウス・ブロンクスに戻ってきたボスのフランク。スラム街で彼は弱者の味方だった。NY市も見放した総合病院を維持するため、チャイニーズ・マフィアを倒し大量の麻薬を手にする。が、警察はそんなフランクを野放しにはしなかった。「善行」を積もうとするが、結局、人を殺してしまうフランク。フェラーラ監督にしか撮れない人間の「業」や「悲哀」が描かれる。同作の成功が、「バッド・ルーテナント」へ繋がった。

「バッド・ルーテナント」は、タイトル通り悪徳警部補が主人公。妻子あるニューヨーク市警の警部補LT。一見、人の良い家庭人のようだが、実はドラッグ、酒、野球賭博に溺れ、犯罪行為は日常茶飯事だった。そんなある日、教会の若い尼僧がチンピラに強姦される。犯人を追うLTに、彼女は「神の名の下に彼らを赦す」という。その信仰心に打たれたLTは…。刑事モノと宗教を絡めた異色作。

「ウェルカム・トゥー・ニューヨーク(邦題:ハニートラップ 大統領になり損ねた男)」は、実際の事件がモデル。国際通貨基金(IMF)で専務理事を務めたドミニク・ストロスカーン氏が、2011年にニューヨーク滞在中、ホテルの従業員から性的暴行を受けたと訴えられ逮捕。当時、次期フランス大統領の最有力候補とみなされていたストロスカーン氏だったのだが…。同作はあくまでもフィクションで、真相を知るのは当事者のみ。

「4:44ラスト・デー・オン・アース(邦題:4:44地球最期の日)」は、ニューヨークを舞台に、温暖化によって地球最後の日を迎える人々を描いた人間ドラマ。第68回べネチア国際映画祭のコンペティション部門にノミネートされた。

Abel Ferrara Unrated
■5月31日(金)まで
■会場:MoMA
 The Roy and Niuta Titus Theaters
 11 W. 53rd St.
■大人$12、65歳以上$10、学生$8
www.moma.org

○Bad Lieutenant
 5/17(4pm)、5/21(7pm)

○Welcome to New York
 5/18(7pm)

○4:44 Last Day on Earth
 5/19(5pm)、5/22(4:30pm)

○King of New York
 5/28(7pm)


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