2020年5月22日号 Vol.374

オンライン企画、千差万別
フリック・コレクション「キュレーターとカクテルを」
アウトサイダー・アートのヴァーチャル展 


Fragonard Room, South Wall, The Frick Collection, New York. Photo by Michael Bodycomb


Martin Ramirez, Untitled (Man Riding Yellow Donkey), ca. 1960-63. Courtesy Ricco/Maresca Gallery


Felipe Jesus Consalvos, The Conservation of Family Values, ca. 1920-1960s. Courtesy Fleisher/Ollman Gallery


アートを見るとは何よりも「本物」と出会うこと。PC画面のイメージを見るだけでは何も分からない。デジタル画像がパッと鮮やかで、力強く見える作品に限って、実物はそうでもなかったり、逆に、イメージとして目立たない作品が、実際には味わい深い作品だったりする。
ともあれ、本物に近づけない状況にあるいま、美術館や画廊が試みるオンラインでの活動が気になってくる。その中では、毎週金曜の5時に始まる、フリック・コレクションのライブ動画「キュレーターとカクテルを」が実にいい感じだ。同館キュレーターのザヴィエ・ソロモンやエイミー・エングが、フリックのお宝の中の1点に合わせたカクテル片手に、まずはこのレシピや由来から話を始めていく。
そのウンチクもさることながら、作品解説もまた芳醇で濃厚だ。ブーシェの婦人像やコンスタブルの風景画など、普段あまり気にかけなかった作品が、俄然、意味あるものに見えてくる。背景にさまざまな物語がある。何より平易な英語の語りで、字幕付きというのもありがたい。

一方、ヴァーチャル展覧会で効果的と思ったのは、アウトサイダー・アート・フェア(OAF)の企画による「アール・ブリュット・グローバル」展だ。アール・ブリュット(仏語で「生の芸術」)とは、アウトサイダー・アートとほぼ同義語で、通常の美術教育を受けていない人々が生み出すアートであり、囚人やホームレスや障碍者、あるいはビジョナリーと呼ばれる独特の感性を持った人々など、環境的にも特殊な場から生み出されるアートであることが多い。
画材など制作面での制約があるだけに創意工夫の面が際立ち、一見稚拙なイメージも、何かに憑かれたような表現力に溢れている。いわば、「デジタル画像で見るより、実物はもっと凄かった!」と言えるのがこのジャンルであり、本展は、第一弾として代表作家19人を紹介している。
幾何学模様とドレスのパターンが溶け合った、大きな目の少女像で知られるイギリスのマッジ・ギル=表紙写真=、トンネルや汽車、馬の絵など望郷のイメージを描き続けたメキシコ移民のマルティン・ラミレス、人や動物のシルエットがユーモラスに浮かび上がるアメリカのビル・トレイラーら、いずれもアウトサイダー・アートの「巨匠」たちだ。
トレイラーの作品は、2年前の秋、スミソニアン・アメリカ美術館で初めてしっかりと見た。南北戦争より前の時代に奴隷として生まれ、晩年は路上生活者となり、ドローイングを描き始めたのはなんと85歳を過ぎてから。亡くなるまでの10年間に1000点を超える作品を遺し、その大回顧展が首都ワシントンの美術館を埋めている。私は心底驚いた。
初めて見る作品もある。キューバ移民のフェリペ・ヘスス・コンサルヴォスのコラージュだ。葉巻職人として生計を立てていた彼の画材は、そう、葉巻を包装するカラフルな帯であり、さまざまなブランドのロゴや文字が、古い写真の周囲を額縁のごとく彩っている。スローガン風の文字の扱いや精緻なイメージの作りは、ダダのフォトモンタージュも顔負けだ。車やスープ缶など広告イメージの応用はポップの先駆けともいえよう。
独学のアートとはとても思えないが、彼とて、その生涯は定かではない。作品は、死後20年を経て、とあるガレージ・セールで発見されたという。発表することを目的としないアートには、作り手それぞれの生き様にアートの意味が隠されているようだ。
6月半ばからの本展第二弾では、近年注目の新しいアウトサイダー作家たちが登場する。(藤森愛実)

Cocktails with a Curator @ The Frick Collection
www.frick.org

Art Brut Global, Phase 1
■5月29日(金)まで
www.outsiderartfair.com



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