2018年5月25日号 Vol.326

セナに憧れ、レーサーに
「インディ500」で二連覇目指す
レースドライバー 佐藤琢磨

佐藤琢磨
昨年の「インディ500」で優勝した佐藤 (Photo by Shawn Gritzmacher)

佐藤の写真2
優勝カップにキス


昨年5月28日、日本人ドライバーの佐藤琢磨(さとう・たくま)が、世界三大レースのひとつ「インディ500」で優勝した。フォーミュラカーを使用したアメリカ最高峰のカー・レース「インディ500」のトップに初めて日本人ドライバーの名が刻まれた瞬間だった。

佐藤が最初にレースを見たのは、10歳の時。鈴鹿で初開催されたF1の「日本GP」だった。「サーキットのスケールの大きさや、観客の多さにも驚きましたが、何よりもF1マシンの迫力に魅せられました。腹の底に響くようなターボ、F1独特の低音と、戦闘機のような高周波の金属音、それらがコーナーに到達して、マシンの姿が見える前から聞こえてくるのは衝撃的でした。目の前を圧倒的な加速とスピードで一瞬にして通り過ぎる。凄まじいエキゾーストノート(排気音)と、レース燃料が燃焼した甘い香りを残して過ぎ去って行く…そのすべてに一瞬で虜になりました」
当時の日本ではF1が大人気。日本人ドライバーの中嶋悟もさることながら、何と言ってもアイルトン・セナと、アラン・プロストとの戦いが大きな話題となっていた。「前を走るマシンに追いつき、どんどん追い越してしまうセナ選手。彼の走りを初めて見た時から憧れました」と話すその目は、少年のように輝く。
しかし、モータースポーツに興味を持ちながらも、19歳までは自転車競技に没頭。レースを始められる環境がなかったからだった。「鈴鹿で見たF1後は、モータースポーツに夢中になりましたが、テレビで見ることしかできません。唯一、自転車競技こそが自分にとっての『レース』であり、実際に参加できるスポーツでした」。競技では、常に「クルマに乗っているイメージ」で自転車を漕ぎ、「いつか必ずF1に」という思いを忘れることはなかった。
時が満ちた200 2年、F1への参戦を果たした佐藤。「F1は夢のような存在でしたから、初走行の時は本当に信じられないほど興奮しました(笑)。レースドライバーになってからは、やる仕事は他のカテゴリーでも同じ。とにかくベストを尽くし、チーム一丸となって、速く走れるように努力する。それだけです」。当時のF1は、セナが事故死、プロストも引退し、ミハエル・シューマッハーの全盛期だった。佐藤と一緒に走り、今でも現役のF1ドライバーに、キミ・ライコネン、フェルナンド・アロンソ、セバスチャン・ベッテルがいる。
2008年、突然の不運が佐藤を襲った。リーマンショックで、佐藤の所属チームがF1から撤退してしまう。諦めきれない佐藤は、F1への復帰を試みるものの、その願いが叶うことはなかった。
「それならば…」と、次に目を向けたのが、以前から気になっていたアメリカの「インディカーシリーズ」だ。「とりわけ『インディ500』には昔からとても興味を持っていたので、実際に視察に行きました。その時に受けた衝撃は、10歳の頃に鈴鹿で受けた感覚と近いもの。そこで、インディカーへの参戦に向け本格的に照準を合わせ、チームと交渉を始めることになったのです」。F1に残り、テストドライバーとして契約する道もあったが、あくまでも「レースドライバー」にこだわった佐藤。F1撤退から2年後の2010年、佐藤はインディカーへ参戦した。
「各チームがオリジナルのマシンを作らなければいけないF1に対し、インディカーはエンジンこそメーカーが分かれるものの、シャシーは統一され、基本的に同じ道具を使います。そのため、チーム間同士のマシン性能は僅差。すべてのドライバーとチームに勝利できるチャンスがあります。また、市街地レース、常設のサーキット、そしてオーバル(楕円)コースと、レースの舞台がバラエティに富んでいることも大きな違いですね」
アメリカのレースファンが熱狂するオーバルコース。同じ「楕円」でも各コースによって、様々な特徴があるという。「オーバルはマシンのセッティングも特殊ですし、ターゲットとなるコーナーもスピード域を含めて限られてくるため、エンジニアリングも一切の妥協がありません。ドライビングスタイルでカバーできることが限られ、セッティング作業も非常に細かく難しい。また高速コーナリングになるので、先行車が作り出す乱気流の影響も大きく、非常にテクニカルです」。自らのフィーリングに合ったマシンを手にした時に最高のレースができる、と佐藤は断言する。

佐藤が「インディ500」で優勝してから1年。去る5月15日から始まった「インディ500」のプラクティス(練習走行)を順調に走り、20日の最終予選も突破した。
「インディ500は、本当に素晴らしいイベントです。僕が優勝したことで、多少は認知されたかとは思いますが、さらに皆さんにその魅力が伝わるよう、これからも全力で走り続けます! 現地に来られる皆さんは、ぜひその世界最大規模のスケールと、史上最速のスピード感を楽しんで頂き、日本にいらっしゃる皆さんは、ぜひ生放送で応援してください!」
決勝戦は5月27日(日)。会場では30万人を超える観客全員が、去年優勝した佐藤の顔が印刷されたチケットを持つという特別な日だ。
連覇を目指す佐藤琢磨、チーム一丸となってレースに挑む。(ケーシー谷口)

102nd Running of The Indianapolis 500
■5月27日(日)12:00pm(ET)
■会場:Indianapolis Motor Speedway
 4790 W. 16th St., Indianapolis, IN 46222
■General Admi$35(15歳以下無料)
 座席指定$60〜
www.indycar.com



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