2018年5月25日号 Vol.326

日経ナショジオ写真賞・グランプリ
粕谷徹「命をつなぐ」
全てのいきものへ広がる思い


受賞作「命をつなぐ」の1点。「卵塊をアップで覗き込んでいると突然親の姿が現れ驚いた。その様子は歌川国芳の『相馬の古内裏』を連想させた」と粕谷。撮影地: 静岡県 西伊豆 大瀬崎


「まだ冬の羅臼。雪が多く残りモノトーンの景色が広がる。しかし水中に顔を着けるとカラフルな海藻に驚かされる」撮影地:北海道 知床羅臼


「マダコの孵化。一度に沢山の稚ダコが孵化し天敵に襲われ全滅を防いでいる。 この1匹はこの先大きく成長できるまで生き残れるのだろうか・・・」撮影地: 静岡県 西伊豆 大瀬崎


「捨てられた空き瓶を棲家にしたミジンベニハゼ。2匹揃って挨拶に出迎えに来てくれたようだ」撮影地:大瀬崎


第6回「日経ナショナルジオグラフィック写真賞」グランプリ受賞者・粕谷徹(かすや・とおる)の個展が、6月6日(水)から9日(土)まで、西22丁目のフォトケア・ギャラリーで開催される。題して「Hidden Beauty Near the Shore」。今回は23点が展示、オープニングには粕谷も来場する予定だ。
毎年、この日経ナショナルジオグラフィック写真賞のグランプリ受賞者は、ニューヨークでの個展開催の機会を得る。同賞は、国際的に活躍できるドキュメンタリー写真家を発掘し、日本から世界へ送り出したいとの願いから創設された。

粕谷は、神奈川県藤沢市在住の水中写真家。グランプリ受賞作品は、海中で懸命に卵を守り育てる生物たちを撮影した4枚組「命をつなぐ」。今回、審査委員から次のような批評が与えられた。=以下、日経ナショナルジオグラフィック写真賞・オフィシャルサイトから抜粋=
「命の誕生を忍耐強く観察した完成度の高い4枚組。生命体と向き合う写真家のまなざしがしっかりと表現された秀作だ」(写真家・野町和嘉)
「粕谷さんは観察眼が非常に鋭い写真家。気持ちが高ぶっている生き物を驚かさないように近づき、卵を守る親の表情や、歓喜の一瞬をとらえている」(写真家・中村征夫)
「命をつなぐという生き物の根源的な営みを、奇をてらうことなく、淡々と提示した点が素晴らしい。その静けさによって、被写体である4種だけでなく、地球上のあらゆる生き物へと思いが広がる」(ナショナルジオグラフィック誌日本版編集長・大塚茂夫)

粕谷は、水中写真を沖合ではなく人口の多い沿岸部で撮影する。「私達の目と鼻の先に、驚く程豊かな生命の営みがあることを多くの人は知りません」。魚のプロとも言える漁師でさえ、粕谷の写真を見て驚くという。「撮影後にビーチに戻って地元の人々に海の写真を見せる。彼らの興奮と驚きの表情が、私にモチベーションを与えてくれます」。構図やライティングの多くを絵画から勉強しているという粕谷。今は浮世絵の表現技法を取り入れており、「浮世絵師の魂を持った水中写真家になる」ことを目標に掲げている。

■6月6日(水)〜9日(土)
 オープニングレセプション:
 6日:6:30〜8:30pm
 (アーティスト在廊)
■会場:Foto Care
 43 W. 22nd St.
■入場無料
www.fotocare.com


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