2019年5月31日号 Vol.350

ドキュメンタリーの鬼才、原一男監督
衝撃的な6作品を一挙上映
「カメラ・オブトゥルーサ」

ゆきゆきて、神軍
奥崎謙三の姿を追った「ゆきゆきて、神軍」The Emperor's Naked Army Marches On. 1987. Directed by Kazuo Hara. Courtesy Kino International Corp./Photofest.


日本を代表するドキュメンタリー映画の鬼才、原一男監督が手掛けた作品を紹介する「カメラ・オブトゥルーサ(Camera Obtrusa)」が、6月6日(木)から14日(金)まで、ニューヨーク近代美術館(MoMA)で開催される。
エロール・モリス監督から「知られざるドキュメンタリーの天才」、マイケル・ムーア監督から「日本のソール・ブラザー」と呼ばれる原監督。47年以上のキャリアの中から長編6作品が上映される。

1945年6月8日、末富アサの私生児として、山口県宇部市の防空壕で生まれた原監督。72年、妻の小林佐智子さんと「疾走プロダクション」を結成。ほとんどの作品で佐智子さんと共同作業を行っている。

「ゆきゆきて、神軍」(87年)は、日本の元陸軍軍人、奥崎謙三を追ったドキュメンタリー。
ニューギニア戦線を生き残った奥崎は、終戦後、「敵前逃亡」の罪で2人の兵士が殺されたことを知る。真実を暴こうと、処刑した5人の上司を訪ね、問い詰める。「人類のためになるとしたら私は暴力を振るう」と言い放ち、「知らぬ存ぜぬは許しません」と、執拗に食ってかかる姿を、カメラは記録する。
日本映画監督協会新人賞やベルリン国際映画祭カリガリ映画賞など、多数を受賞した問題作。

「極私的エロス 恋歌1974」(74年)は、原監督の私的な側面を収めた一本。
原監督と同棲し、男児をもうけたフェミニストの武田美由紀さん。彼女は「男の世話になるのはイヤだ」と離婚、子どもを連れて沖縄へ。黒人兵の恋人ができ、妊娠すると、「自力出産するので、撮影して欲しい」と原監督に依頼する。
ハイライトの「出産シーン」はピンボケ。意図的ではなく、「メガネをかけてファインダーを覗いていたため、汗でくもってしまった」という。若き原監督が、自身の秘部を題材にした衝撃作。

「ニッポン国VS泉南石綿村」(2017年)は、「大阪・泉南アスベスト訴訟」を追う。2006年、石綿(アスベスト)工場の元労働者とその家族が、損害賠償を求めて国を訴えた。1審で勝利する原告団だが、国は地裁、高裁、最高裁へと上告を続け、その間にも被害者たちはひとり、またひとりと死んでいく。最高裁で勝訴するまでの8年間を追った記録的ドキュメンタリー。

6日から9日の上映時、原監督と小林佐智子さんが来場し、質疑応答が予定されている。加えて6日はマイケル・ムーア監督も参加、ディスカッションが行われる。詳細はウェブサイトで。

Camera Obtrusa:
The Action Documentaries of Kazuo Hara
■6月6日(木)〜14日(金)
■会場:MoMA
 11 W. 53rd St.
■大人$12、65歳以上$10、学生$8
www.moma.org
○ゆきゆきて、神軍
 6/6(6:30pm)、6/10(4pm)
○さようならCP
 6/7(4pm)、6/13(6:30pm)
○極私的エロス・恋歌1974
 6/7(6:30pm)、6/10(7pm)
○全身小説家
 6/8(4pm)、6/12(7pm)
○またの日の知華
 6/8(8pm)、6/12(4pm)
○ニッポン国VS泉南石綿村
 6/9(2:30pm)、6/14(6:30pm)


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