2018年6月29日号 Vol.328

次は長編で映画館めざす
英語の壁、洗礼受けて発奮
俳優・映画監督 鈴木やす

鈴木やす
Georgia O'Keeffe: Visions of Hawai'i. Photo courtesy of the New York Botanical Garden

ザ・アポロジャイザーズ
今年の観客賞を受賞、謝罪請負人を描いた「ザ・アポロジャイザーズ」で主演の鈴木やす(左)と高山明


アジアソサエティを会場に、すっかり定着した「ニューヨーク・ジャパン・シネフェスト(以下NYCJF)、今年は早くも第7回を数えるにいたり、6月6日と7日の両日、日本をテーマにした短編6本ずつ、計12本の力作が上映された。そのうち、初日に上映された作品で観客賞を受賞した「ザ・アポロジャイザーズ」(The Apologizers)の監督で、NYCJFの共同代表でもある鈴木やす氏を訪ね俳優活動、映画製作へのキッカケなどについて聞いた。

「今回出品した『アポロジャイザーズ』は私の3作目」という鈴木さん。映画祭第1回の、2012年、「その時の作品が僕の2作目でした」。それから6年、共同代表でもある鈴木さんは出品を控えてきた。満を持しての再登場について話を聞くと、「構想がうまれてから9年、何度も何度も脚本を書き直し深めてきました。次から次へと新たなネタを考えるというより、ひとつの作品をじっくり考えて作り込む、というタイプなんです」。
今回は共同代表の一人で映画監督でもある古川康介氏がプロデューサーを引き受けてくれ、プロの編集者も迎えた。そういう意味で20分という短編だが、アメリカの映画プロダクションとしてきちんとしたフォーマットの中で作った最初の作品とも言える。「それに応じて費用も厳しいものになりました」と笑う。「はじめは舞台用のコントにしようと考えてキャラクターなどを設定しましたが、肝心の舞台が実現せず、それなら映画にしようと切り替えたんです」

鈴木さんは元々俳優である。大学の卒業を間近にひかえたころから地元・中京テレビの「5時サタマガジン」という番組にレポーターやコメディアンとして出演を経験。その頃出会った大竹まこと氏をいまも「芸人としての生き方の師匠」と敬愛している。卒業後いったん東京に出るか、まっすぐNYに向かうか、躊躇があったが、『先の読める』東京よりも、『先のまったく読めない』NYを選び、一から始めることを選択。卒業するとすぐにNYの土を踏んだ。
映画製作へのきっかけは、2000年に妻と共に「RANT」(大騒ぎ)という芝居を作ったことだ。ダンサー、俳優としてサバイブすることに集中するあまり、それまで見えなかったものが見えた。「仕事は自分で作るもの」ということ。演じるだけではなく自らの才能を活かす場を「自分で生み出す」、このことだった。見方が変わると自分が楽になった。鈴木さんの大きな転機だったと言えよう。
24歳でNYに来た1991年、英語がネックと感じていたこともあって、まずダンスに取り組んだ。来る日も来る日もダンス漬け。働きながらも一日6時間をダンスに時間を割いた。「若かったし、毎日が充実していました」とふり返る。アクティングスクールにも通い、オーディションに積極的に挑戦、ミュージカル「王様と私」の米国内ツアーに採用され、1年半の間に2度全米を巡演したという。
鈴木さんの作品には、良質のおかしみや笑いがある。事実今回の映画祭でも観客の笑いを充分に得たという確かな手ごたえを感じた。ただ、コメディとはいえ、別に奇妙な演技やあざといセリフで受けをねらうこともない。では何か? それは、ひとが物事にシリアスに向き合えば向き合うほど、おかしみが自然にわきでるもの、という独特の笑いのツボが押さえられているのだ。「これを私は中京テレビ時代に『大竹まことさん』から学んだのです」。この哲学的ともいえるツボが、今回の「アポロジャイザー」でも遺憾なく発揮されている。
さらに、映画製作における鈴木さんのこだわり、それは、「映像美の追求」だ。「映画というのは写真芸術が土台になっているもの。僕自身、美しい映像にとても感動しますから」
今回の「アポロジャイザーズ」でも、屋上や公園のシーンでは特に念入りに、何日か撮り直しも敢行したほどだ。「美しい映像の中にストーリーをはめ込む、というのが僕の手法」と独特の審美観を強調。
日本育ちの俳優にとって、英語は大きな壁だ。鈴木さんはかつて大きな洗礼を受けたことがある。「2005年にオフオフ・ブロードウェイで『ゴールド・スタンダード』という芝居の主役をやらせたもらったんです」。韓国人でアル中の詩人、という役どころだ。高く評価された芝居であったが、後日出たタイムアウト・マガジンに『主役のヤス・スズキの言っていることが半分くらいしかわからない』という不名誉な劇評が載った。ガーンという衝撃。「それからは英語の発音や言い回しの矯正と克服に無謀なほどお金をつぎ込んで必死に取り組みましたよ」と鈴木さん。
最近は、教え始めて7年ほどになるヨガ・インストラクターとしての忙しいスケジュールをこなしながら長編映画用の脚本執筆に着手した。「2時間くらいの長編、普通の映画館で有料で上映されるような作品を目指します」と決意をのぞかせる。
また、これまで3度、取り組んできた芝居『沓掛時次郎』(作・長谷川伸、演出・ジュン・キム、音楽・吉俣良)のあらたな公演計画も視野に入れている。(塩田眞実)

■ブログ:yasusuzuki.wordpress.com
■トレーラー:vimeo.com/254971984
vimeo.com/253556599



HOME