2019年7月12日号 Vol.353

アポロ月面着陸50周年
月の姿とその影響力
「アポロのミューズ:写真時代の月」


ガリレオ・ガリレイがまとめた書籍「星界の報告(Sidereus Nuncius)」Photo by YOMITIME


月面写真「フォトグラフィック・アトラス・オブ・ザ・ムーン」(展示風景・部分) Photo by YOMITIME


アポロ計画陰謀論を題材にした作品 Making of AS11-40-5878 (by Edwin Aldrin, 1969), 2014 © Jojakim Cortis and Adrien Sonderegger


1969年7月20日、世界で5億人がテレビに釘付けになったアポロ11号の月面着陸。メトロポリタン美術館(以下メト)では、月面着陸50周年を記念した特別展「アポロのミューズ:写真時代の月」が行われている。170点以上の写真を中心に、印刷物、ドローイング、映像、絵画、ビデオ、アートなど、人類が成し遂げた偉業を様々な側面から紹介する。

展示会場は5つに大別。
イントロは「マッピング・ムーン」と題されたセクションで、月のドローイングや初期の写真などを展示。
1609年、イタリアの天文学者ガリレオ・ガリレイは、当時としては桁外れの20倍率という高性能の望遠鏡を完成、天体観測を始めた。月面に起伏があること、天の川が無数の星々から成ること、木星の衛星などを発見し、それらを絵と文章でまとめた書籍「星界の報告(Sidereus Nuncius)」(1610年)を発表。人々は、初めて目にした宇宙の詳細に衝撃を覚え、月面の地形と特徴を研究する「月理学(月面地理学)」が生まれた。
1830年代、写真が出現すると、天文学者たちは月を撮影しようと試みる。だが、当時のカメラは露光時間が長く、常に移動する月を鮮明に撮影するメカニズムが必要だった。初期の天文写真は、この障害を克服した進歩の記録でもある。

セクション2「デイドリーム・バイ・ムーン」では、人々が月から得た豊かな空想力に焦点を当てる。ドイツロマン派の画家カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ、イングランドの風刺画家トマス・ローランドソン、アメリカの写真家エドワード・スタイケンなど、個性的な月夜の風景は、鑑賞者に物語を連想させる。
 映像の世界でも、「宇宙を旅する」というファンタジーが加速。ジョルジュ・メリエス監督の「月世界旅行」やフリッツ・ラング監督の「月世界の女」などのサイレント映画が登場。1950年には、本格的な宇宙旅行映画「月世界征服」が上映された。

セクション3「ムーンショット」では、アメリカの月面着陸に関連する当時のニュース資料や写真、映像に加え、ソビエト連邦のプロパガンダ資料=宇宙に行った初の犬(ライカ犬)や初の女性宇宙飛行士(ワレンチナ・テレシコワ)=などを紹介。月面着陸時のCBSニュース映像もループ上映されている。
1961年5月25日、ジョン・F・ケネディ大統領が「人類を月に着陸させ、無事に帰還させる」と宣言。その準備として、月面を近距離から撮影する無人探査機を打ち上げ、画像を収集した。月の写真は、国民の支持を集める目的に利用されると同時に、月面の着陸地点を特定する重要な資料でもあった。だが、人々が最も感銘を受けたのは月の写真ではなく、宇宙空間に浮かぶ美しい地球の姿だったという。

セクション4「マッピング・ザ・ムーン・フロム・パリ」では、フランスの天文学者モーリス・ローイと、ピエール・ピュイゾーによって制作された月面写真セット「フォトグラフィック・アトラス・オブ・ザ・ムーン 」を展示。当時、世界で最も高性能な望遠鏡の本拠地であったパリ天文台から、14年間に渡って月全体を撮影。大量のネガから出版に適したものを選択し、拡大してエッチングプレートに転写。かつてないクオリティーとサイズの写真グラビアを完成させた。

最後のセクションは、「アート・アフター・アポロ」。人類が月に到達したことでアーティストたちは、月やロケット、宇宙飛行士などをモチーフとした作品を次々と発表。一部で囁かれていた「アポロ月面着陸は、ねつ造だ」という陰謀説を題材にした作品は、有名な月面第一歩の足跡をスタジオで正確に再現。周囲には、制作時に使用した工具やセメントの袋、オリジナルの写真などを配し、「着陸時の足跡ってこんな風だろ?」と、陰謀説を裏付けるように茶化す。

7月1日(月)、開催に先駆けて行われたプレビューでキュレーターのミア・ファインマン氏は、「月は常に科学と芸術、観察と想像力の対象であった」と説明。
1608年、オランダのハンス・リッペルハイの望遠鏡の発明から50年前の月面着陸まで、およそ4世紀。技術の進歩によって少しずつ分かり始めた月の姿と、その影響力が見てとれる。

Apollo's Muse:
The Moon in the Age of Photography
■9月22日(日)まで
■会場:The Met Fifth Avenue
 1000 Fifth Ave.
■大人$25、65歳以上$17、学生$12
 12歳以下無料
※NYS居住者およびNY/NJ/CTの学生は入場料任意
www.metmuseum.org


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