2019年7月12日号 Vol.353

銃暴力、差別…
新解釈で米社会の闇描く
「オクラホマ!」


7人のオーケストラにはバンジョーやペダルスティールギターも The cast of Oklahoma! on Broadway. All Photos by Little Fang Photo


のびやかな歌声とコケティッシュな魅力のストローカー Ali Stroker & James Davis


新しいカーリーとローリー像を生み出した二人 Rebecca Naomi Jones & Damon Daunno


「おばあちゃんの『オクラホマ!』とは違います」
トニー賞ミュージカル・リバイバル作品賞を受賞した「オクラホマ!」には、そんなキャッチコピーが付けられている。
1943年初演、伝説のミュージカル作家ロジャース&ハマースタインの出世作「オクラホマ!」は、アメリカの開拓精神や楽観性を屈託なく描いた名作。リバイバルを重ね、映画化もされた。
昨年秋のオフ公演に続き、今春ブロードウェイで開幕した今回のリバイバル公演は、明るく牧歌的な物語の裏にある暴力や差別といったアメリカのダークサイドを赤裸々にあぶり出し、NY演劇界を震撼させた。台詞や歌詞をほとんど変えず、型破りな演出によって古典の解釈に新境地をもたらした快挙だ。

1906年、州への昇格を間近に控えたオクラホマ。農場の娘ローリーは、カウボーイのカーリーと相思相愛だが、意地の張り合いばかり。嫌われ者のジャッドもローリーに思いを寄せており、拒絶できない彼女のアンビバレントな感情は劇中ダンスで表現される。
村祭の日、娘たちのお手製のピクニックバスケットが競売にかけられた。カーリーとジャッドはローリーのバスケットを競り合い、村人たちの助けでカーリーが勝つ。そしてローリーにプロポーズ。諦めきれないジャッドだったが、ローリーは遂に彼を拒絶する。
ローリーとカーリーの結婚式当日、ジャッドが贈り物を手に現れる。が、その中身は銃だった…。

劇場に入ってまず驚くのは、壁中におびただしい数の銃が架けられていること。オクラホマは最後のインディアン準州(政府が先住民を強制的に移住させた土地)で、アメリカの開拓や州の成立は、すなわち先住民の殺戮の歴史であったことをまざまざと思い起こさせる。劇中でも銃暴力が生む悲劇が強調され、「オクラホマ!」は銃規制運動に寄付も行っている。
登場人物の描かれ方も従来とは異なるが、特筆すべきはジャッドの扱いであろう。村の鼻つまみ者のジャッドに、カーリーが自殺をそそのかす「かわいそうなジャッドが死んだ」という歌がある。この場面は二人の顔のアップのライブ映像で進行するのだが、その演出はカーリーと村人たちの行為が「いじめ」以外の何物でもないことを見せつける。
終幕、ジャッドは実際に死んでしまう。オリジナルでは、ジャッドはカーリーともみ合ったはずみにナイフの上に倒れて命を落とす。カーリーは正当防衛で無罪となり、笑顔で新婚旅行に旅立って行く。今作では、銃の箱を持ったジャッドが一歩踏み出しただけでカーリーは銃を取り上げ、瞬く間に彼を撃ち殺す。だが、やはり正当防衛で無罪となる。理不尽さが強調される点に、演出家ダニエル・フィッシュの意図がある。続く「オクラホマ、OK!」の合唱も、従来の祝祭的なフィナーレとは全く異なる場面に生まれ変わった。
さて、シリアスな面ばかり並べてしまったが、ローリーの女友達アドアニーと恋人ウィル、行商人アリのコミカルな三角関係など楽しいシーンも満載。アドアニー役のアリ・ストローカーは、車椅子の俳優として初のトニー賞助演女優賞に輝いた。
そして豊かな旋律の楽曲。「美しい朝」やオクラホマ州の州歌となったタイトル曲など数々の名曲は、ブルーグラス風の編曲で新たな魅力を見出した。カーリー役のデイモン・ドーノは男らしい二枚目タイプではないがファルセットやヨーデルを交えた個性的な歌唱はピカイチ。
ローリー役のレベッカ・ナオミ・ジョーンズは、結婚こそが幸せとみなされていた時代の女性を諦観を漂わせた演技で巧みに表現した。
観客自身が村人の一人として集会所に座っているようなイマーシヴシアターである点もユニークだ。休憩中にはチリとコーンブレッドが無料でサーブされるので、ぜひ試して欲しい。

陽気で明るい「オクラホマ!」を惜しむ声もある。しかし今回、露わにされた「闇」を見て見ぬふりをして、昔のアメリカ礼賛バージョンが再び上演される日は来るのだろうか。
(高橋友紀子)

Rodgers & Hammerstein's Oklahoma!
■2020年1月19日まで
■会場:Circle in the Square Theatre
 1633 Broadway
■$40〜
■上演時間:2時間45分
oklahomabroadway.com


HOME