2018年7月13日号 Vol.329

感動の名曲と圧巻のダンス
20世紀ミュージカルの金字塔
「回転木馬」

回転木馬
Amar Ramasar and the-company (All Photos by Julieta Cervantes)

回転木馬
Jessie Mueller and Joshua Henry

回転木馬
Renée Fleming and Jessie Mueller


1945年初演の名作「回転木馬」が24年ぶりにリバイバル上演中だ。「王様と私」、「サウンド・オブ・ミュージック」などを手がけたロジャース&ハマースタイン作で、20世紀のミュージカルの金字塔としての存在感は今なお色褪せていない。1999年のタイム誌のランキングでは「20世紀最高のミュージカル」にも輝いた。

舞台は19世紀末から20世紀初頭のメイン州。遊園地のメリーゴーラウンドの客引きビリーは、女友達と遊びに来たジュリーと出会い、恋に落ちる。やがて二人は結婚するが、仕事をクビになったビリーは、自分への苛立ちから妻に手を上げてしまう。そんなビリーをジュリーは「彼は不幸せなのよ」と優しくかばうのだった。妻の妊娠を知ったビリーは父親になるという焦りから金のために盗みの計画に加わる。が、計画は失敗し、八方塞がりになったビリーは自殺する。
天界に辿り着いたビリーに、一日だけ下界に戻るチャンスが与えられる。下界では15年が経過し、彼とジュリーの娘ルイーズは美しい少女に成長。ところが、父親は盗っ人だといじめられ、ルイーズは周囲から孤立していた。娘を救おうとビリーはルイーズの前に姿を現すが…。

「回転木馬」の魅力は、何といってもメロディアスな楽曲と迫力満載のダンスシーンにある。美しいラブバラード「もしもあなたを愛したら(If I Loved You)」、そして魂を奮い立たせるような「人生ひとりではない(You'll Never Walk Alone)」はJリーグのFC東京の応援歌にも使われている名曲だ。
楽曲の魅力を最大限に引き出すため、プロデューサーとベテラン演出家のジャック・オブライエンは、ずば抜けた歌唱力のキャストを厳選。ジェシー・ミューラー(「ビューティフル」でトニー賞を受賞)の柔らかく透明な歌声は、控えめで一本芯の通ったジュリーにぴったり。また、オペラ界の歌姫ルネ・フレミングがブロードウェイ・ミュージカルに初出演、流麗なソプラノに万雷の拍手が送られていた。
ビリー役にはこの役で3度目のトニー賞ノミネートを受けた実力派のジョシュア・ヘンリーを抜擢。深みのある声で、とにかく歌が上手い。白人のビリー役をアフリカ系アメリカ人俳優が演じるのはブロードウェイで初の試みでもある。実力重視で人種の垣根を取り払った「ノン・トラディショナル・キャスティング」を古典作品で行なったことは、多様性を尊重する時代に合った英断と言える。
振付は、ニューヨーク・シティ・バレエ団の振付師で弱冠30歳のジャスティン・ペック。バレエにコンテンポラリーなテイストを加味した踊りでトニー賞振付賞を受賞した。音楽と踊りだけの冒頭の8分間は夢の世界に引き込まれるよう。一方、アスレチックな躍動感あふれる「Blow High, Blow Low」は圧倒的。
ところで、本作のストーリーは長年論争の的となって来た。というのもビリーは妻に手を上げる「DV夫」であり、ジュリーもそれを容認する点は現代の価値観では完全に「アウト」だからだ。このリバイバルにも、#MeToo時代を意識した苦心が随所に見受けられる。夫の暴力を肯定するジュリーの台詞はカット。ジュリーの親友キャリーがビリーとの関係に物申す場面は現代の女子トーク風だ。4月の開幕以来、昔の物語を現代の価値観で塗り換えるべきではないという意見と、もう時代遅れという声が噴出、それぞれに一理あり考えさせられる。
サント・ロカストの舞台美術はシンプルで写実的、アン・ロスの衣装では男性キャストの横縞セーターが目立つが47着全て手編みだそう。
人生は束の間の喜び。回転木馬のように。長いようで短い夏休み、珠玉の歌と踊りを味わいに、ブロードウェイの遊園地に出かけてみませんか?(高橋友紀子)

Rodgers & Hammerstein's Carousel
■会場:Imperial Theatre
 249 W. 45th St.
■$40〜
■上演時間:2時間45分
carouselbroadway.com



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