2022年8月5日号 Vol.427

超豪華キャスト!
ハッピーエンドの「その後」
ミュージカル「イントゥ・ザ・ウッズ」

キラ星キャスト大集合。左端の牛のパペット(ケネディ・カナガワ)に注目!All photos by Matthew Murphy & Evan Zimmerman

夏の間は比較的静かなブロードウェイで、「Must See(必見)!」と大評判のミュージカルが7月半ばに開幕した。

「イントゥ・ザ・ウッズ」は、ミュージカル界のレジェンド、故スティーブン・ソンドハイム作詞作曲、ジェームズ・ラパイン脚本の1987年初演の名作。今回のリバイバルには、超が付く豪華キャストを揃え、毎晩劇場は沸きに沸いている。

ベースになっているのはなんとグリム童話。童話といえば、「むかしむかしあるところに…」で始まり、「めでたし、めでたし」で終わるのが常套パターン。けど、狼を倒した後の赤ずきん、王子と結婚した後のシンデレラ、豆の木に登って巨人の宝を手に入れたジャックはそれからどうなったの…? 本作は、おとぎ話の「その後」をちょっとシビアな視点で描く大人のミュージカルである。



パン屋の夫婦は、魔女の呪いで子どもを授かれないでいた。魔女は、白い牛と赤い頭巾、黄色い髪、金色の靴を揃えて差し出せば呪いを解くと告げる。パン屋は4つの品を探して森に向かう。

一方、赤ずきんは祖母の家、シンデレラは母の墓へ、ジャックは牛を売るためにそれぞれ森への旅に出る。魔女がさらった塔の上のラプンツェルも森の中に住んでいた。

パン屋夫婦は無事4つの品を手に入れて赤ちゃんが生まれる。シンデレラは王子と結婚し、ジャックと母親はお金持ちになり全員の願いが叶って一幕が終わる。

第二幕で「その後」が展開する。シンデレラとラプンツェルの王子たちは眠りの森の美女と白雪姫にすっかり心を移してしまう。そこへ天界から落ちて死んだ巨人の妻が復讐にやって来る。城も村も破壊されて一同は大慌て、責任をなすりつけ合うが、次々に殺されて行く。残された人々は力を合わせて戦うことを決め…。

赤ずきん(ジュリー・レスター)と狼(ギャビン・クリール)のやり取りは爆笑

軽妙洒脱なのに複雑なソンドハイム独特の楽曲とおとぎ話が錯綜する難しい作品に、演出家リアー・デベソネはキャストの力量を生かしたシンプルな演出で最大限の輝きを与えた。コミカルなシーンのツボの押さえ方と言い、決定版との呼び声も高い。

キャストは、人気シンガーソングライターで、「ウェイトレス」の作詞作曲家・主演も務めたサラ・バレリス、ブライアン・ダーシー・ジェームズ(「サムシング・ロッテン!」)、パティナ・ミラー(「ピピン」)、ジョシュア・ヘンリー(「カルーセル」)など、演技力も歌唱力もピカイチの俳優ばかり。「above the title」(作品名の上に名前が載る目玉俳優のこと)に6人もクレジットされるのは実に珍しい。

一人が登場するたび、観客はワァッと歓声を上げ、割れんばかりの拍手を贈る。客席の盛り上がりぶりは、特別な場に居合わせたという思いを強めてくれた。

シンデレラはフィリパ・スー、王子はクリールの二役

1988年のトニー賞では、ミュージカル脚本賞、楽曲賞など3部門を受賞した。ちなみに、この年の作品賞はあの「オペラ座の怪人」だけに、脚本と楽曲への評価の高さを物語っている。
2014年に映画化され、魔女役はメリル・ストリープ、狼とシンデレラの王子の二役はジョニー・デップが演じた。

願いが叶っても、あらゆる行為には代償がある。どこで物語を終えるかでハッピーエンドは変わってしまう。親と子や恋人の在り方、正義とは何か。このミュージカルは、おとぎ話から多くの示唆を導き出す。抗い難く無慈悲な巨人の妻という存在は、パンデミックや個人の自由への抑圧というアメリカが現在直面している問題をも想起させる。

終幕、パン屋、シンデレラ、赤ずきん、ジャックの4人は、悲しみに暮れつつも共に生きて行くことを決め、パン屋は息子に森の中での冒険を語り始める。「その後」のその後には、小さくても確かな希望があった。(高橋友紀子)

Into The Woods
■10月16日(日)まで
■会場:St. James Theatre
 246 W. 44th St.
■$50〜
■上演2時間50分
https://intothewoodsbway.com


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