2022年8月5日号 Vol.427

NYAFF対顔(前編)

20周年を迎えた「ニューヨーク・アジアン映画祭(NYAFF)」が7月末で閉幕した。日本から長編9本、短編3本が上映され、多数の監督、出演者、関係者が来米し、レッドカーペットを飾った。本紙では2号に渡り、独断で選んだ4作品の「制作秘話」を紹介。

「牛首村」Ox-Head Village
清水崇 監督「中学までホラーが見られなかった」

「スクリーン・インターナショナル・スター・アジア・ライフタイム・アチーブメント賞」を受賞した清水監督(Photo © NYAFF, Gavin Li)

「呪怨」以降、多くのホラー映画を世に送り出してきた清水崇監督。海外でも「Jホラー」を代表する監督として知られ、NYAFFが長年の功労・功績者に贈る「スクリーン・インターナショナル・スター・アジア・ライフタイム・アチーブメント賞」を受賞。30年以上に渡る活動が認められた。



「『Jホラーの先駆者』と言われても、ちょっと恥ずかしいですね。別にホラーを目指していたわけではなく、実は中学ぐらいまでホラー映画なんて見られなかったですから(笑)」

印象に残っている映画として、野村芳太郎監督の『鬼畜』をあげる。「ホラーではありませんが、『怖かった』という意味で今でもトラウマ、異様な恐怖を感じました。今なら客観的に見られますが、あの時は子どもだったので(笑)」

「人間の歪んだ部分、関係性、考え方、思想などを誇張して表現しています」と話す清水監督(Photo by KC of Yomitime)

大学在学中、課題として3分ほどの短編「家庭訪問」を制作。これが、「呪怨」の原型だ。ビデオ作品として発表された「呪怨」は、口コミで「怖い」と話題となり映画化。最終的には、ハリウッドでリメイクされる程のヒットを飛ばした。

「『牛首村』では、脚本も手がけました。ファンタジーもコメディーもホラーも、ベースは似通っている部分があると考えています。人間の歪んだ部分、関係性、考え方、思想。その辺りを誇張して表現しています」

「牛首村」は、「犬鳴村」、「樹海村」に続く「恐怖の村シリーズ」の第3弾。村名、地名は実在し、心霊スポットとしても認知されている。

「もともとは東映のプロデューサーから、『=犬鳴村に行ったら戻れない=という都市伝説をからめた作品を作ろう』と提案され、ゼロから脚本を書いて制作。予想以上にヒットしたことから、実在する場所を舞台に、シリーズ化することになりました」

「牛首村」で女優デビューを果たしたKoki (OX-HEAD VILLAGE © 2022 OX-HEAD VILLAGE Production Committee)

アメリカのホラーといえばゾンビか殺人鬼で、血みどろのスプラッタ系が定番。一方で日本のホラーは、何気ない日常の中に霊が存在、心理的な恐怖を煽る。

「アメリカの場合は直接的・男性的というか、露骨な見せ方が特徴です。日本の場合は間接的で女性的、抑えた表現が怖い、という違いがあります。文化、宗教感の違いもそうですが、大都市では、ゴーストよりも隣人、直接的で暴力的のほうが身近で怖い。目に見えて理解しやすいのがアメリカ流です。アジア圏は、生前の思い出や内面、想いの方が怖い。そのため『露骨』にやりすぎると『幽霊』ではなくなってしまう。そこがJホラーの特徴ですね」

「牛首村」の主人公に木村拓哉の娘、Kokiを起用した理由を尋ねた。

「プロデューサーからの推薦で、まずは一度会ってみました。少し話をしただけですが、ポテンシャルの高さを感じ、『この子は何か違うな』と。でも俳優としては未経験でしたから、演技指導は受けてもらい、レッスンコーチを付けて制作。予想以上に素晴らしい演技をしてくれました」

登壇し、映画について語る清水監督 Photo © NYAFF, Chris Kammerud (@cuvols)

監督にとって「コメディー」の要素と、「恐怖」の要素は同居しているという。

「それらは紙一重で、ちょっと表現を変えるだけ、目線を変えるだけで、『怖さが笑いに、笑いが怖さに』なると考えます。『コメディーと恐怖』は同一線上にあり、そのギリギリのところを攻める(狙う)のが好きなんです。感覚的に意識していないところに別人の存在が居たり、気付いていないところに他のモノを存在させる。それが怖さにも笑いにも繋がります」

今後は、オリジナルの作品作りで勝負したいと話す監督。

「すでにある原作モノをベースにすれば成功する確率は高いですが、オリジナルの原作・脚本で制作したい。あとは、ホラー以外でも勝負したいですね。『呪怨』が僕のライバルになってしまっているので、『呪怨』の呪縛から逃れたいです(笑)」(敬称略)


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