2019年8月23日号 Vol.356

「盆踊り」に見える日本人の心
NY夏の風物詩として定着を
ジャパン・パフォーミング・アーツ・インク代表:濱田裕子


「JPA Cultural Repertoires 2017 / Ages of Enchantment」 で舞台挨拶する濱田さん


日本文化を伝統芸能で紹介することを目的とし、2004年に発足した「ジャパン・パフォーミング・アーツ(以下JPA)」。創始者で代表の濱田裕子(はまだ・ゆうこ)さんは、2歳から日本舞踊を学び、宝塚に入団。男役を6年間演じたが、「舞台を作りたい」と来米。NY大学の脚本科に入学し、舞台制作を手掛けた。
JPAは、主に日本舞踊、着物、郷土芸能の3部門に力を入れて活動。NY市内の学校や病院などでも、積極的に公演を行っている。
「日本舞踊は、身体の使い方が西洋の踊りと異なります。その点に気が付いた時、伝統舞踊とは、その国の文化や精神的価値観を表現しているのではないかと考えました。そこで、5つの文化圏=ペルシャ、インド、中国、韓国、日本=の伝統舞踊を通し、文化を紹介する舞台『パノラメイジアン・ダンス・プロジェクト/ルッキング・フォー・サラスバティ』を2008年に制作しました」。この作品は同年、国連に招聘され舞台公演が行われた。「この経験で学んだ事から、西洋の踊り方と比較しながら、日本の古典舞踊を教え、創作活動を始めました」
濱田さんの活動は、着物ショーや、着物の知識を教える無料クラス、着付け教室など多岐に渡る。さらに、日本の郷土芸能をアメリカへ伝えたいと、島根県で「石見神楽」を学び、NYでチームを発足。「大蛇」の舞いが出来るようになると、NYでの自主公演を皮切りに、アトランタのジャパンフェスト、国連インターナショナルスクールなどで上演。5年の歳月をかけて学んだ秋田県の「西馬音内盆踊り」も、NY上演に漕ぎ着けるなど、精力的に活動する。「これらの経緯から、去年、ガバナーズアイランド(以下GI)で『石見神楽』を披露しました」。同演目がニューヨーカーに好評だったことを受け、今回、GIからJPAへ参加を依頼され、「JPA日本三大盆踊りフェスティバル」の開催に繋がった。
「GIの希望は、『野外でのイベント』でした。スタッフに島内を案内して頂いたのですが、アウトルック・ヒルという小高い丘から臨んだ自由の女神とマンハッタンの摩天楼を目にした時、『三大盆踊り』がひらめきました。もともと私は、西馬音内盆踊りが踊れましたので、『できる!』と感じたのかもしれません(笑)」
日本三大盆踊りは、秋田の西馬音内盆踊り、岐阜県の郡上踊り、徳島県の阿波踊り。それらを短時間のうちに完成させる必要があった。まずは、各踊りが踊れる「先生」を見つけ、参加者に教えてもらい、最終的に参加者全員で踊らなければ「盆踊り」としてのパフォーマンスは成立しない。「その点を、どのようにクリアーするかが問題でした。NYで活動されている各県の県人会会長に相談したところ、沢山のアドバイスを頂戴したり、鍵となる人物をご紹介頂いたりと、皆様には大変助けられました」
そんな地道な活動が次第に広がり、盆踊りグループ「ニューヨーク盆ダンサーズ」が参加。さらに日本から、西馬音内盆踊り愛好会のメンバー14人の来米も決まり、一気に人数が増えたという。
「何を行うにしても、いつも有難く思うのは、様々な活動に献身的に動いて下さるJPAメンバーの皆さんです。おかげでこの度も全て滞りなく、終着点に着けそうです」と、濱田さんは笑顔を見せる。

一般的に「日本は狭い」と言われるが、同じ県内でも、言葉(方言)や習慣が異なるという多様性がある。「日本で郷土芸能に携わると、その土地の情熱と純粋さを感じます。ビジネスではなく、そこには数百年、さらに千年以上前から伝承されてきた時間と叡智があり、それを受け継ぐ純粋な『心』が必ず存在します。『盆踊り』は多種多様でありながらも、大勢で同じ振りを揃って踊るという、日本人らしい楽しみ方を象徴しているのではないでしょうか」。歴史的にも重要な三大盆踊りの衣装や曲、踊りを、ニューヨーカーに観て体験してもらうことで、「日本の心」を感じて欲しい、と続けた。

JPAでは、今後も「盆踊り」を継続、9月からは芸北神楽の「滝夜叉姫」を稽古する予定だ。将来的には石見神楽と芸北神楽の両方を紹介、地域住民が持つ神楽への情熱をニューヨークで伝えたいという。「郷土芸能や伝統芸能を通し、日本の地方とニューヨークとの繋がりができるように活動できればいいと思います。さらに現在、『エクスパンション・インターナル・スパイラル』という芝居を制作中で、2年以内の公演を目指しています」と、濱田さんの目標は尽きない。
「スシ」や「カラオケ」と同様、「ボンオドリ」が定着し、夏の風物詩になる日は、そう遠くないかもしれない。

パフォーマー、MC紹介


ニューヨーク盆ダンサーズ

「ニューヨーク盆ダンサーズ」は、ニューヨークを中心とし、米国東海岸地域の盆踊りに関する情報提供を行うことを目的に2018年に開設しました。シーズン中は、チーム・メンバーで米国各地の盆踊りに参加する他、一部の会場では曲選びや振り付け指導など、盆踊りの運営協力を行うこともあります。オフシーズンは、ニューヨーク市内で盆踊り教室を開催。年齢、性別、人種を問わず、より多くの方々に盆踊りを楽しんでいただけるよう努力しています。近郊の高校の太鼓部や大学の日本文化研究会とのコラボレーションも行ってきました。
盆踊りの魅力は何と言っても敷居の低さです。大切なことは楽しむこと。楽しそうに笑顔で踊るあなたを見て「私も踊りたい!」と思った人が加わり、盆踊り会場に足を運ぶ人が一人でも増えることを願っています。
www.nybondancers.com


芝亮(しば・りょう)

東京都出身の弁護士。大学卒業後単身来米し、NY州弁護士資格を取得。一方でダンサー、歌手、小説家、ポッドキャスターなど多くの顔を持つ。その類稀な経歴と一風変わったキャラクターを活かし、2015年JPAのメンバーに。以後、JPAのイベントに欠かせない存在となる。


竹内聖香(たけうち・せいか)

=写真左=日本の高校卒業後単身来米し、大学でシアターを専攻、演劇を学ぶかたわら、様々な舞台に出演。「Twins New York」としてユーチューブ活動や司会業も行なっている。
横田実優(よこた・みゆう)
=写真右=は、ニューヨークを拠点とする役者。「Water By The Spoonful」「The Arsonist」などのオフオフブロードウェイに出演。


西岡舞(にしおか・まい)

=写真左=音大でミュージカルを学び、単身NYへ。歌とダンスに磨きをかけながら、大舞台への夢を追う。
前嶋利菜(まえじま・りな)
=写真右=父親の影響で舞台好きに。東京藝術大声楽科を卒業後、AMDAニューヨーク校でミュージカルを学ぶ。NY在住5年目。西岡舞を含む4人グループ「Hello, New York! Chu!」で、ユーチューバーとしても活躍中。


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