2018年9月21日号 Vol.334

秋のアートシーズン到来
ベテラン女性作家、ギャラリー3選
河田多美子、リザ・ルウ、シャーリー・フォン・ハイル

河田多美子
Tamiko Kawata, CBS2, 2018. Courtesy Garvey|Simon, New York

リザ・ルウ
Installation view of Liza Lou, Clouds, 2015-2018. Photo by Matthew Herrmann. Courtesy the artist and Lehmann Maupin, New York, Hong Kong, and Seoul

シャーリー・フォン・ハイル
Charline von Heyl, Dial P for Painting, 2018.Courtesy the artist and Petzel, New York


レイバーデーが終わるや、秋のアートシーズンの開幕! 例年この時期は、ギャラリーによる新人作家の展覧会が多く、テーマや手法に面白い共通項があったりして、それがニューヨーク・アートの新しい動きとして話題を集めたものだった。が、近年の特徴といえば、ベテラン作家の活躍だろう。
筆頭は、チェルシーのガーヴィ・サイモン画廊で開催中の河田多美子(1936年生)の彫刻展である。河田といえば、安全ピンを繋げた立体作品でよく知られ、99年にはイーストハンプトンにある彫刻庭園兼ギャラリー「ロングハウス・リザーブ」でダイナミックな野外彫刻を披露している。以来、大学美術館での発表や、企業や美術団体によるコミッションワークの制作も多い。
河田は日本でアートを学び、62年にニューヨークへやってきた。素材としての安全ピンは、もともとはアメリカで購入する衣料品のサイズが合わず、いわば手近なリフォーム手段として使っていたものだが、それ自体で繋がっていくフレキシブルな表現性に目覚めたという。こうした日常素材への注視が、河田のアートのエッセンスといえよう。
新作の、抽象的な線のモチーフによる平面作品も興味深い。一見、かっちりとした金属面のようだが、実は、段ボールの断面にある波型をさまざま組み合わせたものだ。色付けされたり、フレームに入ったり。円筒形の立体もある。ジオメトリックでクリーンなフォルムは、60年代のミニマリズムに通じている。ちょっとした遊び心は、ダダの精神だろうか。
素材に対する一貫した態度という点では、リーマン・モーピン画廊の新スペースを埋めるリザ・ルウ(1969年生)の新作展も同様だ。90年代半ば、カラフルなビーズで覆われたシンクや戸棚、ガスレンジなど、キッチン丸ごとの再現で人気を集めたルウ。「雲の分類と目録」と題された本展では、淡い水彩画に転身かと思いきや、近づいてよく見れば、白い小さなビーズがレース糸でびっしり織り込まれている。
このビーズ織りは、ビーズ民芸に想を得たルウが、南アフリカのダーバンにスタジオを構え、現地の女性たちとともに協働作業で生み出したものだ。アート制作と地元産業を結びつける試みは、社会派アートのプロジェクトとして近年目立っているが、ルウの試みもここ10年以上続いているという。ハンカチ大のサイズで織られたビーズ布はグリッド状に構成され、ブルーやピンクに色付けされている。ビーズが剥ぎ取られ、下地のレースが見えている部分もある。手作業による、一種繊細な表現ながら、二層吹き抜けの壁面を埋める大作は圧巻だ。ちなみにこの新スペースは、リーマン・モーピンのチェルシー2軒目のスペース。ルイ・ヴィトンなど店舗デザインで知られるピーター・マリーノの設計であり、ちょっとした話題を集めている。
一方、ペッツェル画廊に登場したのは、シャーリー・フォン・ハイル(1960年生)の新作絵画、全17点だ。「今季は絵画、それも女性の画家が強い」といった声がすでに出ているが、ニューミュージアムの「2018トリエンナーレ」で一躍注目を浴びたクリスティーナ・クアレスの例を見るまでもなく、ここ数年、女性画家はずっと強いのだ。フォン・ハイルの絵画は、具象、抽象、パターン絵画、グラフィティなど、一見、多彩なスタイルの混在だが、入り組んだ構成があまりに巧みで力強いため、描かれているものより描かれ方に目がいってしまう。
塗りやモチーフの重なり合いは、前へ前へと飛び出すムーブメントに溢れ、下塗りは、つるりとしたパネルを思わせる平坦なものもあれば、逆に生成りのキャンバスに絵の具が層をなして染みているものもある。画面は、画家の行為のアリーナであり、同時に、装飾的な美しさを備えている。かつて絵画の新作展といえば、5、6点並ぶのが普通だったが、見せる量もすごい。前述した河田やルウを含め、なるほど今季は、女性作家の好スタートが目立っている。(藤森愛実)

Tamiko Kawata: Permutations
■10月6日(土)まで
■会場:Garvey I Simon
 547 W. 27th St.
■入場無料
www.garveysimon.com


Liza Lou: Classification and
Nomenclature of Clouds
■10月27日(土)まで
■会場:Lehmann Maupin
 501 W. 24th St.
■入場無料
www.lehmannmaupin.com


Charline von Heyl: New Work
■10月20日(土)まで
■会場:Petzel Gallery
 456 W. 18th St.
■入場無料
www.petzel.com


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