2022年9月30日号 Vol.431

シャドーボックスで巡る街の声
先駆者たちの功績伝える
「ビレッジ・ボイス 2022」

①ジェイムズ・ボールドウィン(地図4:Jackson Square Park)Photos by YOMITIME

グリニッジ・ビレッジ、イースト・ビレッジ、ノーホーを散策しながら、都市の歴史と文化に触れる無料の野外展示「ビレッジ・ボイス2022」が、10月30日(日)まで開催中。

主催は、同地域における建築や文化遺産の保存を目的として1980年に設立された非営利団体「ビレッジ・プレゼンテーション」。近隣の建築物を監視しランドマーク指定の提唱と保存、違反についての解決方法なども提案している。



今年2年目となる「ビレッジ・ボイス」では、22個のシャドー・ボックスを設置=地図別記=。地域の開拓とその遺産・偉業を称えるもので、かつてこの地域に居住していた、または足跡を残した人物や物語を、コラージュされた画像とともに紹介。簡単な解説に加え、専用のウェブサイトにリンクしたQRコードもあり、サイトでは音声案内を聞くことができる。アーティスト、写真家、コメンテーター、作家、映画制作者、歴史家、ジャーナリスト、ミュージシャン、ナレーター、教授、専門家など、先駆者たちの思想と功績を伝えている。

②ビリー・ホリデイ(地図5:NYC AIDS Memorial Park, 76 Greenwich Ave) Photos by YOMITIME

小説家・著作家・劇作家・詩人で、公民権運動家としても知られるジェイムズ・ボールドウィン=写真①=。ハーレム生まれでブロンクスの高校を卒業後、グリニッジ・ヴィレッジに移住、文学の道を歩み始めた。作品の多くはアメリカでの人種や性差別がテーマで、自らが同性愛者であることも隠さず、さまさまな問題を可視化させることで、互いの理解を深め、歩み寄ろうと唱えた。

女性ジャズ・シンガー、ビリー・ホリデイ=写真②=。10歳の時に強姦され、家庭にも恵まれず、売春やドラッグにも手を出し、波乱万丈な人生を送った伝説の歌姫。シャドー・ボックスには、そんな彼女の転機となった曲「奇妙な果実」の楽譜が添えられている。木に吊るされ虐殺された黒人の歌を、黒人女性が唄うことは危険であったにも関わらず、使命感を感じていたビリーは、怯むことなく歌い続けた。ちなみに、ビリーがこの曲を初めて披露したのは、グリニッジ・ヴィレッジで1938年から48年まで営業したナイトクラブ「カフェ・ソサエティ」だった。

③ Etienne Charles, Photo courtesy of Lincoln Center

その他、ブルックリンのゲットー生まれで、世界中でヒットした絵本「かいじゅうたちのいるところ」で知られる絵本作家のモーリス・センダック、ホイットニー美術館の創設者で彫刻家のガートルード・ヴァンダービルト・ホイットニー、抽象表現主義の創始者である画家のジャクソン・ポロック、モダンダンスの開拓者といわれるダンサーで振付師のマーサ・グレアム、モダン・ジャズ(ビバップ)を生み出したアルトサックス奏者のチャーリー・パーカーなど、地域を有名にした人物の片鱗を知ることができる。

④「70フィフス・アベニュー」ビルの展示(地図6:70 Fifth Avenue 13TH ST & 5TH AVENUE)Photo by Yomitime

また、関連展示として2ヵ所でインスタレーションを展開。

ひとつは、かつて「全米有色人種地位向上協会(National Association for the Advancement of Colored People=NAACP)」の本部として機能し、現在はランドマークに指定されている「70フィフス・アベニュー」ビル。高さ20フィートの窓を利用し、学者のW・E・B・デュボイス、調査ジャーナリストのアイダ・B・ウェルズ、作家のラングストン・ヒューズ、作家で民俗学者のゾラ・ニール・ハーストン他、社会正義に尽力した多数の活動家を讃えている=写真④=。

⑤「選択へのモニュメント(A Monument to Choice)」(地図3:GANSEVOORT PLAZA)Photo by Yomitime

もうひとつは、ガンセボート・プラザ(38 Gansevoort St)に設置された「選択へのモニュメント(A Monument to Choice)」=写真⑤=。人々が、「私は選択を支持する(I Stand for Choice.)」と刻まれた台座に立つことで、「あらゆる可能性を認め、敬意を表して立つ」という体験型インスタレーションだ。

「ビレッジ・ボイス」は、コミュニティへのオマージュであり、先人への敬意を表した企画展。

Village Voices 2022
■9月18日(日)〜10月30日(日)
■場所:Greenwich Village / East village/ NoHo
■無料
https://www.villagepreservation.org

地図はオフィシャルサイトからダウンロードできる


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