2021年10月15日号 Vol.408

ガールズパワー炸裂!
現代に蘇る6人の王妃たち
「シックス」

中央がキャサリン・オブ・アラゴン。スタイルはビヨンセ (Photo by Joan Marcus)

ブロードウェイ再開後、初となる新作ミュージカルが開幕した。「シックス」は、16世紀の英国王ヘンリー8世の6人の妻たちが現代に蘇り、ガールズバンドを組むという破天荒なミュージカル、と言うより、ノリノリのポップコンサートだ。

ブロードウェイが閉鎖になった昨年3月12日に開幕を予定していた作品で、その日涙を呑んだオリジナルキャスト全員が復活。祝祭ムードに満ちた舞台に仕上がっている。

「離婚、斬首、死亡、離婚、斬首、生き延びた」。イギリスの子どもたちは、ヘンリー王(1491〜1547)の6人の元王妃が辿った苛酷な運命をそう暗記するらしい。ヘンリーは、愛人と結婚するために、離婚を禁じていたローマ・カトリック教会から英国国教会へと分離までしてのけた。移り気な王と妻たちの物語は、シェイクスピアを皮切りに、オペラ、映画、小説、テレビドラマなどに何度も取り上げられて来た。



あらすじ代わりに、元王妃たちを簡単に紹介しよう。〈キャサリン・オブ・アラゴン〉24年連れ添った末に離婚。〈アン・ブーリン〉元王妃の侍女。略奪愛の末、3年後に反逆罪で斬首刑に。〈ジェーン・シーモア〉アンの侍女。唯一息子を生むが産後に死亡。〈アナ・オブ・クレーヴズ〉お見合い肖像画より醜いという理由で離婚。〈キャサリン・ハワード〉アンの従姉妹で侍女。19歳で結婚するが、姦通罪で斬首刑。〈キャサリン・パー〉高い教養の持ち主で執政に貢献。王の崩御を看取った後、元カレと再婚。

6人の元王妃たちがそれぞれの人生を歌い踊る (Photo by Joan Marcus)

当然、6人が実際に一堂に会することはなかった。悪名高き王に翻弄された女性たちが、現世でポップバンドとしてコスプレ風の衣装を身に着け、ロックコンサート並の派手な照明の下で、コンテスト番組さながらにリードボーカルの座を競い合う。アイデアが抜群だ。

判断基準は、「誰がヘンリー王に最も酷い仕打ちを受けたか」。最初の王妃から順に自己紹介的なソロを披露しては、「ちょっ、首切られるよりマシじゃん!」という口調でにぎやかに論じ合う。しかも、それぞれがビヨンセ、ブリトニー・スピアーズ、アデル、アリアナ・グランデなどポップ界のディーバを彷彿とさせ、客席は大喜び。

この型破りなミュージカルは、まだ20代のトビー・マーロウとルーシー・モスがケンブリッジ大学在学中に創作。2017年にエジンバラ・フリンジで初演されて以来、イギリス国内ツアー、ウエストエンド、北米ツアーなど、瞬く間に発展した。アルバムは1日に平均30万回ストリーミングされ、キャストアルバムでは世界第2位。キャッチーな曲を暗記して一緒に歌っている女性グループも目立った。

女優たちは皆個性的で豊かな才能の持ち主ばかり。太めだったり、アフリカ系アメリカ人やアジア人など、マイノリティが過半数を占めている点も好感度が高い。共同演出の一人(モス)、舞台装置、振付、衣装、ミュージシャン6人も全員女性を起用。虐待というシビアなテーマを軽く扱っているという声もあるものの、女性のエンパワメントのメッセージが全体に込められている。

アン・ブーリン役はフィリピン系のアンドレア・マカセット。いい味出してます (Photo by Joan Marcus)

「生き延びた」妻キャサリン・パーは、私たちはヘンリーの妻という以前に、個性を持つ独立した人間なのだと説く。6人はアイデンティティを取り戻すことを誓い、一致団結してフィナーレ。「ウィキッド」は、女の子同士の友情を描き、共感を抱いた10代の女の子たちから絶大な支持を得た。「シックス」は、次の「ウィキッド」になりそうな予感だ。

コロナ前なら、定価のチケットは数ヵ月先まで完売し、べらぼうに高い再販チケットしかなかっただろう。観光客も少ない今のブロードウェイ、ヒット作をチェックするには狙い目である。(高橋友紀子)

Six
■会場:Brooks Atkinson Theatre
 256 W. 47th St.
■$30〜
■上演時間:1時間20分
sixonbroadway.com


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