2018年10月19日号 Vol.336

唄うことは生きること
生きることは唄うこと
ジャズシンガー リコ・ユウゼン

ジャズシンガー リコ・ユウゼン
Photo by Andrew Levine


「小学校の低学年ぐらいまでは、内気で空想好きな子どもだったと思います」と打ち明けるのは、徳島県出身のジャズシンガー、リコ・ユウゼン(友膳則子)。内向的な娘を心配した母は、「もっと積極性を持つように指導して欲しい」と学校へ相談。「いつの頃からか、担任の先生から司会を薦められたり、リクレーション部の部長をまかされたり…いつの間にか積極的な子どもになっていました(笑)」
幼い頃から音楽が好きで、よく歌を唄っていた。オルガン教室に通い、クラシックピアノも学ぶ。小学校の音楽会でギター演奏を披露し、中学校ではブラスバンドでフルートを担当した。「この頃、『みんなで演奏する』という楽しさを体験できたような気がします」と振り返る。
高校を卒業し、神戸松蔭女子学院大学へ。大学では英文学科で英米の文学を学び、英語の教職課程も修得する。ある日、ジャズ好きの友人が「あなたの声はジャズ向きね」と指摘。それがきっかけとなり、アメリカの女性ジャズシンガー、ヘレン・メリルやエラ・フィッツジェラルドなどを聞き、ジャズ・ボーカルの学校へ進学。「最初は興味本位だったのですが、勉強するうちに面白くなっていきました」。ジャズシンガー、リコ・ユウゼンが産声を上げた。
卒業後は主に関西を中心に活動。その甘く澄んだ歌声が評判となり、次第にイベントやラジオ番組などから、声がかかるようになっていった。

1995年1月17日、阪神・淡路大震災が発生し、全てが一転。唄うことだけでなく、笑うこと、生きる力も無くしてしまったリコ。そんなある日、被災地でボランティアによる音楽コンサートが開かれた。「生の音楽に触れたことで心が癒されました。もう1度、人生を頑張ろうと思えるようになり、『唄いたい!』という意欲が湧きました」。彼女にとって「生きる意味」とは、「唄うこと」だと気が付いた。

2000年、ロサンゼルスに居を構えたリコは、ジャズシンガーのジュリー・ケリーに師事。2003年から2007年まではニューヨークで活動。多くのステージに上がり、そのキャリアを磨いていく。2008年に日本へ戻り、音楽活動の傍ら英語講師や音楽講師も務めるようになる。次にその飽くなき好奇心が向かった先はヨーロッパ。2011年、ドイツに拠点を移しヨーロッパ各国で現地ミュージシャンと精力的に活動。「ヨーロッパではジャズの中にクラシックの要素があり、ヴァイオリンが加わることが多かったように思います。唄うチャンスも多く、時間の流れもゆったりしていて、自分のペースで音楽活動ができました」
2015年、再びニューヨークへ渡り、グラミー賞受賞者のカリン・アリソンに師事。「カリンの曲は、そのオリジナリティと声が好き、スキャットも素晴らしい。人間性も気取らず、『先生目線』ではなく、私が疑問に思うこと、学びたいことを中心に教えてくださいました」。ダメなところもハッキリと指摘するところもいい、と全幅の信頼を置く。

昨年、活動の集大成となるアルバム「I Wish You Love」を発表。気鋭のアレンジャーでピアニストの百々徹がプロデュース。今年9月から、アルバム発表記念の日本ツアーを開始。各地を巡り11月20日(火)、クラブ・ボナファイドでツアーファイナルを迎える。
「みんなが頑張って生きているニューヨーク、街が与えてくれるパワー。その中で触れる人間愛の大切さを唄っています。この街で生きるにはタフでなければならない。私は周囲の人々の優しさ、励まし、思いやりによって、今まで音楽活動を続けることができました。その集大成となる作品をニューヨークで発表できたことに感謝したい。歌を通して、私の愛も伝えたいです」

最後に、リコにとっての「ジャズ」とは。
「『片思いの恋』のようなものです(笑)。追っても追っても、まだまだ自分のものにならない、到達できない。果てしない魅力を感じています」
愛を伝えるリコのスタイリシュな歌声は、ジャズに恋こがれる心の結晶だ。

Rico Yuzen Quartet
■11月20日(火)7:00pm
■会場:Club Bonafide
 212 E. 52nd St. 3Fl.
■$20(+2ドリンクミニマム)
clubbonafide.com


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