2019年11月1日号 Vol.361

スタイリッシュで斬新
ドラマチックなコンサート
「アメリカン・ユートピア」


全員シルバーグレーのスーツ姿なのに裸足。このヌケ感がいい David Byrne and the cast of "American Utopia". All photos by Matthew Murphy


パーカッション軍団のファンクなアフロビートがカッコイイ! The cast of "American Utopia"


銀色の玉すだれが舞台を囲み、千住博氏の滝の絵のよう David Byrne and the cast of "American Utopia"


全く新しいタイプのショーに巡り合った。多才なミュージシャンのデイヴィッド・バーンによる「アメリカン・ユートピア」だ。2018年発表の同名アルバムのツアーから発展したロックコンサートで、演劇的な要素もふんだんに取り入れられている。トーキングヘッズ時代の曲も織り交ぜ、イノベーティブでスタイリッシュ、なおかつ人間味を感じる独創的な舞台である。

まずデイヴィッド・バーンについて説明しよう。1952年スコットランドで生まれ、アメリカで育つ。1970年代にトーキングヘッズを結成、ブロンディー等と共にニューウェーブ全盛期を築いた。91年の解散後も精力的にソロ活動を行い、様々なミュージシャンとのコラボレーションやミュージカルも手がけ、常に新機軸を開拓し続けているアーティストだ。本作の根底には「人間が見て楽しいのは人間」というバーンのビジョンがあり、派手な装置やプロジェクション等を使わず、楽器と人間だけで魅力溢れるショーに仕上がっている。

幕が上がると、最初はバーン一人。そこに、バックコーラス兼ダンサー、キーボード、ベース、ギター、6人ものパーカッションが次々に登場。楽器は全て手持ちでマーチングバンドのように自在に動き回りながら演奏する。二人のダンサーはちょっとした仕草を一捻りした動きを完璧なユニゾンで踊る。バーンを中心に総勢12人がフォーメーションを組んだり、バラバラに踊ったりと多種多様な動きを続けるが、その全ては緻密に組み立てられたもので、音楽を視覚化したかのよう。加えてキャスト全員が個性的で、見ているだけでこんなに楽しめるコンサートは初めての経験だった。

この非凡な振付とステージングはアニー・B・パーソン。バレエからコンテンポラリーまで豊富な実績を持つ。気鋭の演出家アレックス・ティンバース(「ムーラン・ルージュ!」)がプロダクション・コンサルタントとして貢献。
演奏曲は全21曲で、トーキングヘッズ時代の曲の方が多い。ヒット曲「ワンス・イン・ア・ライフタイム」や「バーニング・ダウン・ザ・ハウス」では立ち上がって踊る客も続出。往年のファンとおぼしき観客は羨ましいほど楽しそうだった。
また、曲間に入るバーンのトークは本作に強いメッセージ性を持たせている。「我々は皆移民であり、移民なしではこのショーは成立しない」と彼は訴える。キャストもブラジル、ジャマイカと多国籍でドラァグクイーンも混じり、インクルーシブの精神を体現。R&Bシンガーのジャネール・モネイによる人種差別で命を落としたアフリカ系アメリカ人の名前を次々にシャウトするプロテストソング「Hell You Talmbout」をフィーチャーしたアンコールは圧巻だった。

恥ずかしながら筆者はトーキングヘッズについてほとんど知らないのだが、バーンのことはディスコ風ミュージカル「ヒア・ライズ・ラブ」のクリエイターとして特別な引き出しに分類している。フィリピンの元大統領夫人イメルダ・マルコスが主人公というとキワモノのように聞こえるかもしれないが、個人的にオールタイムベスト10に入るほど大好きなミュージカルだからだ。通常、ライブやコンサートでは知っている曲が演奏されたら盛り上がるものだが、ほとんど知らなくてもここまで楽しめるショーにしてしまうバーンの才能に改めて感服した。
「アメリカン・ユートピア」というタイトルに現在のアメリカへの皮肉が込められているのは言わずもがな。しかし、批判で終わらずに楽しませてくれたのはバーンの懐の深さだ。お洒落でエネルギーさえ与えてくれるこのライブイベント、この秋のオススメである。(高橋友紀子)

David Byrne's American Utopia
■2020年2月16日(日)まで
■会場:Hudson Theatre
 141 W. 44th St.
■$46.50〜
■上演時間:1時間40分
americanutopiabroadway.com



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