2018年11月2日号 Vol.337

オリジナリティを持つこと
自信を持って自己を表現
ファッションデザイナー・画家 コシノヒロコ

コシノヒロコ

コシノヒロコ


1960年代中頃、銀座付近にアイビー・ルックに影響を受けたファッションを身にまとった「みゆき族」が出現。そのブームを率いたのがファッションデザイナーのコシノヒロコ=写真=だ。彼女はまた、筆による墨絵や油絵を得意とする「画家」としても多くの個展を開催し、活発に活動。11月1日(木)からローワー・イースト・サイドの「ホワイトボックス」で、ニューヨーク初個展「コシノヒロコ:バウハウスの香り」(キュレーター:佐藤恭子)が開催される。

コシノは、大阪府岸和田生まれ。地車(山車・だし)をもちいた「だんじり祭」で有名な地だ。祖父の甚作(じんさく)に連れられ、3歳の頃から歌舞伎や文楽を観て育った。「色彩の美しさ、音楽、所作、衣装の美しさを、感覚として感じ取っていました。5歳くらいの頃、舞台で見たものを家に帰ってから、道路にチョークで描くようになりました。舞台を再現するんです。すると通行人が足を止めて感心してくれました。褒められることで嬉しくなり、いつも描くようになりましたね」。この頃から美や芸術に対する感覚が養われていった。
コシノの実家は洋装店を経営。同じくデザイナーである母・小條綾子の背中を見て育ち、同じ道を歩むが、コシノは「縫製が嫌い」だった。「縫い子さんたちは、お客さまたちが遊ぶ時に着る服を作るため、盆暮れ正月無しで働いていました。彼女たちは自分の生活を犠牲にして人の服を縫っていた。その姿や印象が強く、縫うことが嫌いになりましたね」
高校では美術部に入部し、美大進学を希望、絵描きになることを夢見た。しかし母の反対に遭う。「母が中原淳一さん編集の雑誌『ひまわり』の表紙を見て、洋服を作ってくれたことがあったんです。絵描きになる夢を諦めざるを得なかった時、絵を描く才能をファッションの世界で役立たせることができるということを、中原淳一さんのイラストを見て気付きました」。そしてコシノは、ファッションの世界に進む事を決意する。

1978年、ローマで日本人として初めてコレクションを発表 。イタリア版ハーパースバザー誌が特集を組むほど絶賛され、鮮烈なデビューを飾った。80年代には日本にDC(デザイナーズ・キャラクター)ブームが起こり、コシノはフロントランナーとしてブームを牽引。そんな彼女の創造力の源にあったのが絵を描くことだった。「ファッション業界では、今年のデザインが来年には通用しない。この仕事を長くしているとその感覚が身に染み付いて、新しいものに飛びつきたくなります。それとは異なり絵を描くことは、時間をかけて自分の内面を見つめることです。感じたことを表現する=自分を表現するということ。そして自信を持つことで、ファッションにおいても独自性を発揮できる。絵はひとりで描けますが、ファッションはひとりではできない。パターンメイカーや縫製業者さんその他、皆で協力してひとつの世界観を作り上げるのがファッションなんです」
これまで描いた作品はおよそ1900点。画家として、ニューヨーク初個展となる本展では、24メートルの墨の作品を初公開する。「ファッションデザイナーとしてはパリに進出し、画家としては現代アートへの理解が深いニューヨークに打って出ることを目標にしてきました」。展示はその他、絵画約30点、衣服約25点、写真、資料など。
また、健康維持とリラックスのため、以前はスキー、今はゴルフに打ち込んでいるそうだ。身体を動かすこと以外では、子どもの頃から習っている長唄三味線。名取の腕前で、毎年演奏会も開くほど。コシノを一言で表現するなら「明朗快活」、とにかくアクティブだ。
ファッションの世界に進む事を志し、ローマで衝撃デビュー。オリジナリティを持つこと。人がしないことに挑戦し続け、自分にしかできないことにこだわって半世紀以上。コシノにとっては本展も通過点にすぎない。その尽きることないエネルギーに、「だんじり祭り」が透けてみえるのは、自分だけではないだろう。(ケーシー谷口)

コシノヒロコ:バウハウスの香り
■11月1日(木)~12月1日(土)
 オープニングレセプション:
 11月1日(木)6pm〜8pm
■会場:WhiteBox
 329 Broome St.
■入場無料(寄付受付)
■連絡先:212-714-2347
whiteboxny.org

コシノヒロコ・レクチャー
■11月1日(木)11am~12pm
■会場:FIT
 227 W. 27th St.
■参加希望者は以下まで要予約
 kyunghee_pyun@fitnyc.edu
fitnyc.edu


オープニングレセプション
11月1日開催

コシノヒロコ
とコシノヒロコ(右)とキュレーターの佐藤恭子

コシノヒロコ
11月1日、「ホワイトボックス」で行われたオープニング・レセプションに、日本からコシノが参加。「絵を描いてきたから私は長い間ファッションを創り続けることができた」と語るコシノが、これまでに描いた作品は1900点にも及ぶ。会場には墨絵、油絵、衣服などが展示され、中でも壁に飾られた大作は圧倒的な存在感を放っていた。油絵の色彩と衣服の色には共通性があり、コシノの創造力の根底にアートが在ることが見て取れる。
「NYは騒々しいですが、それもこの街が持つパワーだと感じます。やはり刺激的な街ですね」とコメント。多くのファンに囲まれ、アート談義に花を咲かせていた。


HOME