2018年11月16日号 Vol.338

冒険的なカルテット「エセル」
映像と音楽で綴るサーカス文化
「サーカス:ワンダーリング・シティ」

サーカス:ワンダーリング・シティ

サーカス:ワンダーリング・シティ
All Photos by Frank Atura


弦楽四重奏「エセル」による「サーカス:ワンダーリング・シティ」が、11月14日(水)から17日(土)まで、ブルックリンのBAMハービーシアターで開催される。
1998年、ニューヨークの音楽シーンに登場したエセルは、バイオリン2人とビオラ、チェロによるカルテット。ロック、ジャズ、ヒップホップ、民族音楽なども取り入れたスタイルは、「アメリカで最も冒険的な弦楽四重奏」と賞賛され、瞬く間に評判となった。以来、国内外で演奏活動を行う傍ら、200作品以上を作曲・提供している。

エセルが他のカルテットと異なるのは、演奏に映像を取り込んだ視覚的なプログラム。最新作「サーカス:ワンダーリング・シティ」は、文字通りサーカスがテーマの演目だ。
アメリカを代表する庶民の娯楽、大衆文化として繁栄していたサーカス。しかし近年、娯楽の多様化、高額の運営費、動物愛護の観点から、サーカスは下火になっていた。
かねてからエセルに「サーカスをテーマにしてコラボしないか」と持ちかけていたのはフロリダにあるフロリダ州立美術館「ザ・リングリング・ミュージアム」。アメリカの人気サーカス「リングリング・ブラザーズ・アンド・バーナム・アンド・ベイリー・サーカス」(以下リングリング)を所有・運営していたリングリング一族の一人、ジョン・リングリング氏により1927年に設立された美術館で、サーカス関連の資料を展示する博物館「サーカス・ミュージアム」も1948年に併設している。
サーカス・ミュージアムに保存されていた膨大な資料を観覧し、インスピレーションを受けたエセルは2015年、ニューヨークとフロリダで「ワンダーリング・シティ」のワークショップを開始、プロジェクトがスタートした。
そんな折り、15 0年近く続いたサーカス「リングリング」が、2017年5月で公演を終了すると発表。動物愛護団体から非難されたことで一番人気だったゾウの演目を中止したことから、チケット販売が激減。経営難に陥り、サーカスをたたむことになった。
「リングリング」の終演を受け、「サーカス文化を残すため」に急務となったプロジェクト「ワンダーリング・シティ」。2018年1月、「ザ・リングリング・ミュージアム」で世界初演を行い、サーカス文化に新たな光が当てられた。

ビッグトップの下、家族のように人生を過ごしたサーカスの人々は移民も多く、当時、社会からも隔離されていた。華やかで超人的なステージと、舞台裏で見せる人間臭さ。博物館の貴重なアーカイブ資料やインタビューなどを組み合わせた映像と、ダイナミックで叙情的なエセルの調べが、サーカスで過ごした人々を鮮やかに蘇らせる。

Circus: Wandering City
■11月14日(水)〜17日(土)
■会場:BAM Harvey Theater
 651 Fulton St., Brooklyn
■$25〜
■上演時間:1時間20分(休憩なし)
www.bam.org


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