2018年12月1日号 Vol.339

プロム中止を阻止せよ!
フィールグッドなミュージカル
「プロム」

プロム
ブロードウェイ俳優の派手な抗議活動に周りは唖然 (l to r) Christopher Sieber, Angie Schworer, Beth Leavel, Brooks Ashmanskas and Josh Lamon

プロム
互いへの思いを歌うエマ(右)とアリッサ (l to r) Isabelle McCalla & Caitlin Kinnunen

プロムm
エマの呼びかけに各地の高校生が共鳴して行く (l to r) Caitlin Kinnunen (center) and the Cast of The Prom. All photos by Deen van Meer


日本とアメリカの違いに驚くことは度々あるが、アメリカの高校ではプロムなるダンスパーティが学校主催で行われると知ったときは、結構なカルチャーショックを感じたものだ。
その名も「プロム」というミュージカルが11月にブロードウェイでオープンした。ホリデーシーズンにぴったりの楽しいコメディ・ミュージカルだ。物語の中心人物がレズビアンの女子高校生という点はイマドキである。

盛りを過ぎたブロードウェイ俳優四人は、ポジティブなイメージ作りのために社会運動をしようと盛り上がる。そこへインディアナ州のとある高校で、レズビアンの女子高校生がプロムへの参加を禁じられた挙句、プロムそのものが中止になったとのツイートが流れる。格好のネタを見つけたと四人は勇んで現地に駆けつけ、女子高生エマのために抗議活動を行う。だが、自己中心的な彼らは地元の住民の反感を買い、溝は深まるばかり。
一方、エマの恋人のアリッサは、PTA会長で頭の固い母親にレズビアンであることをカミングアウトできずに悩んでいた。エマは、ある方法で自分の思いを届けることを決める。

とにかく、四人のブロードウェイ俳優のキャラが濃い。世界は自分のために廻っていると信じて疑わない往年の人気女優ディーディー。脚線美が自慢のアンジーは、「シカゴ」の万年アンサンブル。ゲイのステレオタイプが服を着て歩いているようなバリーと、ウエイターで生計を立てているトレントの二人はお腹がぽっこり。この四人を演じる俳優陣が涙ぐましいほどうまい。全員ベテラン世代で芸達者だが、いわゆる「Above the Title」(看板やポスターでタイトルより上に名前がクレジットされるスター)俳優ではないだけ、役柄が妙に真に迫っているのだ。
並行して、女子高生カップルのエマとアリッサのピュアな思いや親に言えない悩みなどが等身大に描かれている点がすがすがしい。エマや校長などインディアナの人々との交流を通じ、自分のことしか考えていなかった俳優らが他者への思いやりに目覚めて行くという展開はお約束だが、心が和む。エマ役のケイトリン・キナネン(27)は、17歳の役に全く違和感がなく、澄んだ歌声が印象に残る。
脚本はボブ・マーティンとチャド・ベグリン(作詞も)、作曲はマシュー・スクラーと「エルフ」のチーム。業界ネタ満載で、内輪ネタに弱い演劇評論家たちから喝采を得た。ブロードウェイでは、「ブック・オブ・モルモン」、「アラジン」、「ミーン・ガールズ」に続きケイシー・ニコロウの演出・振付作品はなんと四本目だが、身体能力の高い若手ダンサーを多数起用し、ダンスに次ぐダンスで飽きさせない構成はさすがとしか言いようがない。
ところで、本作は珍しくも映画原作でもジュークボックスものでもないオリジナル・ミュージカル。一見、単純明快なコメディだが、ストーリーは実話がもとになっている。2010年にミシシッピー州の教育委員会がレズビアンの女子高生カップルのプロムへの参加を拒んだことに対し、連邦裁判所は憲法上の権利の侵害との判決を下した。この事件を始め、アメリカ全土で今も起こり続けている同性愛の生徒の差別問題から触発を受けたのだそうだ。
また、民主党支持のニューヨークと共和党支持のインディアナという今のアメリカ社会の分断を体現した価値観の衝突が描かれているのも、ある意味象徴的。歩み寄りが描かれているのはせめてもの救いと言えるだろう。
ふと、周りのアメリカ人に「あなたのプロムはどうだった?」と質問してみたら、二人に「行かなかった」と言われてまたビックリ。学校行事なのに自由参加って…。プロムも奥が深い。(高橋友紀子)

The Prom
■会場:Longacre Theatre
 220 West 48th Street
■$40〜
■上演時間:2時間15分
theprommusical.com


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